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みにくい姫君のお話

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 さて、やがて騎士エオスと従者のヨハネスは地の底にたどりついたのですが、そこにはすきとおった水晶をうすくうすく削ってつくられた棺がひとつだけ置いてあり、その中には痩せて青ざめた、そのくせ鷲鼻の頭だけはやっぱりちょこんと赤い不器量なユピテル姫が目を閉じて眠っておりました。
 騎士エオスは愛しい人にすぐにもくちづけを贈ろうと身をかがめましたが、北の丘陵の魔女の言葉、ユピテル姫の『悪い心』を殺さなくてはならないということを思い出し、腰の剣を抜き放ちました。その剣は騎士エオスのご先祖様がずっとずっと昔にその時の王様からいただいたたいそうりっぱなものでしたが、鞘の中からすがたを見せたしろがねの刃は、とくべつに青く色をつけたガラスをこなごなに砕いたような不思議な光にきらめいておりました。剣は北の丘陵の魔女に祝福を受けていたのです。
 騎士エオスは従者のヨハネスにこう言いました。
「わたしの忠義な友、姫の『悪い心』はどこに宿っているのだろうか。わたしにはけがれなきおすがたしか見られない」
「わたしの主、まったくそのように思えます」
 従者のヨハネスがそう答えた時、ユピテル姫のからだの下から一匹のヘビが這い出てきました。そのヘビの目は赤く、たいそうまがまがしい様子でしたので、騎士エオスは「これこそが『悪い心』にちがいない」と思い当たり、ヘビの首を切り落としました。すると騎士エオスの両の目から、ヘビの目の色と同じ真っ赤なまがまがしい光が飛び出して剣の青い光の中に焼き尽くされてしまいました。
 ところでユピテル姫は騎士エオスに呪いをかけ、北の丘陵の魔女にご自分の罪をすべてかぶせようとしたわけですが、それでもやはり、いいえ、だからこそ、騎士エオスはこの愚かでみにくい姫君を愛しておりました。騎士エオスは棺の蓋を開け、ユピテル姫の冷たいくちびるにくちづけてこう言いました。
「目を覚ましてください、愛しい方。わたしの剣で悪しきものが滅されました。わたしのまごころはあなたにささげられるばかりです」
 するとユピテル姫はぱちりととび色の目を開けて、騎士エオスにやさしくほほえみかけました。吟遊詩人が歌うように、ユピテル姫はたいそう不健康そうな青白いお顔の方でしたが、その時ばかりはほほにさっと血の色がさしましたから、騎士エオスはそれを北の丘陵の魔女にも負けないほどにうつくしい、と思いました。
「わたしの愛する人、慈悲深い人、あなたはわたしの愚かな心を殺し、わたしの罪をゆるしてくださるのですね」
「あの賢い北の丘陵の魔女は、聖なるものがふたたびよみがえるとおっしゃいました。尊くも愛しい方、あなたは神と聖人によりゆるされたのです」
 それでユピテル姫と騎士エオス、そうして従者のヨハネスはまた長い階段を上がって地上にもどろうとこころみたのですが、行く時とはちがい、階段はすぐに終わってまばたきの間に明るい場所へと帰ってくることができました。あかあかとともされていたろうそくはすべて消えて、今は虹色に光るガラスの窓から金色の太陽の光が大理石にまだらの模様を描いています。十二人の聖人像と青い衣の貴婦人の像は、それぞれ十二人の聖人と北の丘陵の魔女にもどられて、尊いおすがたを見せておりました。
「愚かしくも賢く、みにくくもうつくしい王国の世継ぎ、ユピテル姫、わたしたちはあなたとあなたのおさめる国に祝福を与えよう」
 大きな鍵をお持ちになったひとりめの聖人がこうおっしゃって、十二人の聖人たちはユピテル姫と王国にひとつずつ贈り物をくれましたが、それは彼らと同じくらいの賢さ、世界中のあらゆる生き物の言葉がわかる耳、世界中のあらゆる生き物の言葉を話す舌、公正な心、よい天気、よく乳を出す牝牛とそのつがい、たくさんの実をつけるリンゴの若木と小麦の種、決して枯れない川と井戸、吹雪の中でも消えない火種、そして平和でした。ユピテル姫は深く聖人たちに感謝して、国中の民がかれらを称え、感謝するだろうことを予言しました。
「王国で一番の騎士エオス、あなたにはわたしから贈り物を与えましょう。あなたの望みをひとつだけ、なんでもかなえてあげましょう」
 そこで騎士エオスはこれまで忠義に旅に供をしてくれた従者のヨハネスにも褒美を与えなくてはならないと考え、こうたずねました。
「わたしの忠義な友、お前はこれまでよくわたしに仕えてくれたから、その褒美にお前の望みをかなえてやろうと思う。お前はなにがほしいか言っておくれ」
 従者のヨハネスは少し考えて、それからこう答えました。
「わたしの主、わたしはあなたにお仕えできることだけで十分に幸せです。わたしの望みは、あなたに知恵をくれた西の森のフクロウたちと南の荒れ地のトネリコたちにくれてやってください」
 それで騎士エオスはもっともなことだと従者のヨハネスの考えを受け入れて、北の丘陵の魔女に、西の街道の虎と南の窪地の鳥を殺してくれるように頼みました。北の丘陵の魔女がうなずいて手をおかざしになると、その手から青い光が稲妻のように飛び出してそれぞれ西と南へ走ってゆきました。
「これであらゆるものたちが平和に暮らせることでしょう」
 こうして騎士エオスはユピテル姫をつれて、従者のヨハネスをお供にお城に帰り、ユピテル姫が女王様となって国をおさめ、騎士エオスはそのよき手助けとなりました。従者のヨハネスはその忠義をみとめられ、ユピテル姫から一生遊んで暮らせるだけの褒美をいただきましたが、末永く二人にお仕えしました。
 西の街道と南の窪地をおさめていた虎と鳥はほろぼされましたが、その後三羽のフクロウたちと三本のトネリコたちが交代で土地をおさめ、国をよくしました。東の河と北の丘陵をおさめていた竜と魔女は女王様と王様のよい仲間となり、王国は長く栄えたということです。
作品名:みにくい姫君のお話 作家名:みらい