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みにくい姫君のお話

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 さて、北の丘陵のてっぺんにはお屋敷が建っておりましたが、壁は白いすべすべとした石でできていてたくさんの窓にはきらきらと虹色に光るガラスがはめこまれている、それはそれはすばらしい、王様とお后様、そしてユピテル姫の住むお城にも負けないほどのお屋敷でした。正面のとびらは黒檀に鳥や花のきれいな彫刻をしたもので、鍵穴はぴかぴか光る真鍮でできていました。
 騎士エオスはそのうつくしさに感動し、ため息をつきながらもとびらを開けてお屋敷の中に入りました。中はお城で働く人の何倍もの人びとがそろって舞踏会を開けるような大きな広間で、たくさんの大きなろうそくで灯りがこうこうとともされておりましたが、その真昼の太陽にも負けないほどの光の中には、大理石でできた、十二人の聖なる人びとの像と青い衣をまとったたいそううつくしい貴婦人の像が見えました。騎士エオスはそれを見て、青い衣の貴婦人の像の前にさっと膝をつき、騎士の礼をつくしました。なんといっても、こんなにも神々しい気高いお姿の方が、彼に呪いをかけたとは思えなかったのです。
「並びなきわれらの貴婦人、善き魔女殿、とび色の瞳と亜麻色の髪の姫君が、呪いを解く方法をたずねにまいりませんでしたか。あの方は王国の宝、わたしの愛する人なのです」
 すると貴婦人の像はとたんにばら色の頬と雪のように白い肌、そしてぬれたカラスの羽のように黒々とした髪を持つ、たいそう見目うるわしいほんものの貴婦人へと姿を変えました。貴婦人は北の丘陵の魔女でしたが、本当のところこの方は善い魔女でしたので、礼儀正しい騎士エオスにご自分の知恵をさずけてやりました。
「王国の騎士エオス、獅子の心を持つエオス、ユピテル姫はたしかにわたしのもとへ来たのです。そうして今は魔法を受けて、深い深い眠りについています」
「慈悲深いお方、一体どうしてわたしの姫はそのような魔法を受けているのでしょう。あの方はお心やさしく、聡明な方。あなたがそんな残酷なことをしたのですか?」
 いいえと北の丘陵の魔女は首を横にふりました。
「その魔法はユピテル姫の『善き心』がかけたもの。姫の『悪い心』が騎士エオス、あなたに呪いをかけたのです」
 騎士エオスはただもうおどろいて、ちょっとの間どうしていいのかわかりませんでした。北の丘陵の魔女はあわれみ深く目をふせて、十二人の聖人像に向けてさっと手をおかざしになりましたが、そうするとひとりめの聖人像、大きな鍵を持った像の足元に、地下へと続く階段があらわれました。
「騎士エオス、あなたはあなたの剣をもって、ユピテル姫の『悪い心』を殺さなくてはなりません。さあお行きなさい、あなたの剣で悪しきものが滅され、あなたのまごころで聖なるものがふたたびよみがえりますように」
 そう言うと、北の丘陵の魔女はまた大理石の像にもどってしまわれました。騎士エオスは魔女にていねいに頭を下げて、従者のヨハネスと一緒に地下への階段を下りてゆきました。
 階段は金色のしまのある黒い石でできておりましたが、どうしたわけか両側には壁もなく、ただ暗い深い闇だけがはるか底の方に続いていました。従者のヨハネスがたいまつを手にかかげましたが、それも長い長い階段の一段か二段先を照らすばかりです。それでも騎士エオスは臆することなく下へ下へ、もっと下へと階段を降り、従者のヨハネスがそれに続きました。
作品名:みにくい姫君のお話 作家名:みらい