トロイメライ
「さっきからつまんなさそうな顔して、何も言わないし。俺ばっかり質問して、そっちからは全然聞いてこないし、ため息ばっかりだし・・・」そう言いながら、彗太は同時に激しい後悔の念に襲われていた。こんなことを言うつもりではなかったのだ。
「嫌なら帰ればいいだろ」
自分の大人気なさにいたたまれない気持ちだった。なぜこんな言い方しかできなのか、時々自分で自分が嫌になる。彗太は自己嫌悪で千鶴の顔をまともに見ることができなかった。
「ごめん、摂津くん・・・」
「あやまんな!」彗太はふて腐れた様子でふたたびベンチに座った。
「ごめん、ちょっと考え事してただけ」千鶴は言った。「このまま、時間が止まっちゃえばいいのになぁって」
「え・・・」そう聞いて彼女の顔を見やると、苦しくて苦しくて、今にも泣きそうな表情をしていた。
「ごめんね・・・でも私、帰りたくないよ。どこにも」
彼女はベンチの上で抱えた膝に顔を埋めた。あたりの音がすべて掻き消されそうな蝉の大合唱の中で、小さな肩がわずかに震えていた。彗太はやっと、彼女のあの怯えた目や、変わりやすい不安定な態度の意味が、なんとなくではあるがわかった気がした。ここへ来る前、きっと何かとてもつらいことがあって、彼女はずっとそれを訴えていたのだ。
彗太は恥ずかしさと情けなさで、小さな声で「ごめん」とひとこと言った以外には何も言うことができなかったが、その代わり、彼女が泣き止むまではずっとここにいようと決めた。
千鶴は決して涙を見せなかった。自分がこの子を守らなければ、彗太はそう心に誓った。