もし君に、詩が必要なら
「なんか、気持ち悪くなってきた」と、茶羽根は自分とテスが繋がっている心細いロープを握って、言う。
「光に酔ってるんだ、目を閉じてろって、言っただろうが!」と、テスが叫ぶ。声はちゃんと、少し前から聞こえてくる。「メクラになって発狂したいのかよ、そんなの生きてたって、救いが無いぜ」
「そう言われてもさ、目を閉じて歩き続けてるのも怖いんだよ!」と、茶羽根も叫ぶ。「荷物抱えて、足が進まなくなってくる!」
茶羽根は二人分の荷物を抱えて、目を閉じたままテスに引っ張られるままに必死で歩き続けてきたが、慣れないために平衡感覚が失われてきて、膝下まで積もった深い雪に、足を取られ始めていた。
「情けねえなぁ、びぃびぃ言いやがって、元軍人だろうが。もうすぐで〈コンパス〉に着くから、それまで黙ってろ!」と、テスは心配するどころか、逆に歩くペースを速めた。茶羽根はまた目を閉じると、歯を食いしばって暗闇の中を進み続ける。
彼女は何を言っても聞かないのだ。
作品名:もし君に、詩が必要なら 作家名:追試