どっこい!ナポリ道
「はーい、それじゃあまず何から始めましょう!」と言いながら、アキは嬉しそうにジョバンニの腕に抱きつく。
「まず最初に俺から離れて!この体勢で教えようがないだろ!」
「はーい」と、アキは残念そうに半歩だけ離れる。
「まず、小麦粉を練るところからだ!これがピザの基本だ」と言って、ジョバンニは小麦粉とイースト菌を倉庫から出してくる。アキはいちいち子犬のようにジョバンニの後ろをついてきて、30センチも離れようとしない。
「ええと、まずこのボールにレシピ通りの量を入れるわけだが、これは秘伝だから絶対に外に漏らしちゃだめだぞ」
「はい、全部漏らさずごっくんします」
「何を!?」
「レシピをですよ、精液の話なんてしてないじゃないですか」
「言ってない!精液って俺は言ってない!」と、ジョバンニは全力で否定する。
「それで、どうやってこねるんですか」と、アキは話を戻す。
「あれ、ああ、うん。えーと、円を描くように、できる限り力強くリズムよくこねるんだ」と、ジョバンニは実際にやって見せる。小麦粉と水とイースト菌が、ジョバンニの腕の中で楽しそうに踊りながら、一つのピザ生地になっていく。
「うーん、むずかしそう」と、アキは困ったような顔をする。
「最初はこんなに上手くはいかないさ」と、ジョバンニは言う。
「実際にやられてみないと、わからないかも」
「実際にやられてみる?」
「私の胸をピザ生地のようにこねてみてくれれば、体が覚えると思います!」
「どんな理屈だよ!!」と、ジョバンニが突っ込んでいる間にすでにアキはメイド服のボタンを開け、ブラをずらして新雪のように白い肌と、熟れた桃のような色の乳首を尖らせて露わにしている。
「優しく…触ってくださいねっ」と、胸を突き出しながら、下唇を噛み羞恥で真っ赤に燃えた顔をそむけるアキ。
「優しくも厳しくも触らないから!!」
「どうしてですか!?」と、またアキはジョバンニにすがりつく。
「どうしてもこうしても…あるか!」と言って、ついにジョバンニは怒る。
「悪ふざけするんなら、もうピザを教えることはできない!」とジョバンニは言う。
「もう駄目だ!出ていってくれ!」
その途端、アキの瞳から朝露のような涙がぽろぽろとこぼれる。
「…悪ふざけで、3か月も掃除ができますか?私は本気なんです。学校も、家も飛び出して、本気でナポリピザを極めたいと思って…ここを出て行ったら、もうどこにも行くところなんてありません…」
ジョバンニは驚いて、アキを見つめる。そして、今日までのアキの仕事を思い返す。
確かに、アキの言うとおりだ。今まで、こんなに心をこめて店の掃除をした人間などいなかった。弟子入りを志願してもすぐに逃げていく口先だけのやつらばかり。でもアキは違った。どんな仕事でも絶対に手を抜いたりしなかった。
「私、ジョバンニさんの、このお店のピザの味に感動したんです。一生をささげたいって、心の底から思ったんです。だから…だから…」
ジョバンニは、アキが本当にこの店を愛していることを感じる。こんなにも若くして、小さな体で、自分の居場所を手探りのまま必死でつくりだそうとしていたのかもしれない。
ちょうど昔、必死でピザの修業を続けたジョバンニ自身のように。
「…わかったよ、すまなかった」と、ジョバンニは頭を下げる。「君の熱意を誤解していたのかもしれない、君の言うとおりだ」
「そ、それじゃあ…」
「ああ、君が本気で身体を使ってピザを覚えたいと言うなら、俺はそれに従うよ。君が三ヶ月の間、俺の言葉を信じて店を掃除してくれたみたいにね」
「ありがとうございます!」とアキは言って、子供のように泣きながらジョバンニに抱きつく。
☆
「そ、それじゃあやるぞ」と、上半身裸になったアキをテーブルに寝かせて、ジョバンニは言う。
「はいっ、おねがいしますっ」とアキは真剣なまなざしで答える。「私の胸をピザ生地だと思って、おもうさまこねまわしてくださいっ!」
ジョバンニはアキの言葉に一瞬自分は何をしているんだろうと我に返りかけるが、もうここまで来て引き返せない。
アキは悦びで小刻みに震え、昇天寸前の目をしながら熱い吐息を濡れた唇からはぁはぁと漏らしている。それどころかジョバンニにばれないように少しずつスカートも下ろしている。
「い、いくぞ!」と、ジョバンニが覚悟を決めると、あっ、とアキが叫ぶ。
「ど、どうしたんだ」とジョバンニは驚いて尋ねる。
「あのー、ピザ生地をこねる時に、水にオリーブオイルを足すところもあるんですよね」
「ああ、うちでは使わないが、隠し味に入れるところはよくあるな…?」
「では、今回はこれを使いましょう!」と言って、アキは自分のカバンから何かを取りだす。
「これをオリーブオイルだと想定して、私の体に塗りたくってください!!」と言い、アキは事前に絶妙に濃度を調整してあったペペローションをジョバンニに手渡す。
「これで、ピザの気持ちがもっとよくわかるかと思います!」
と、アキが言い終わる少し前に、ジョバンニはアキの眉間目掛け、樫の木でできた重いピザの伸ばし棒を全力で振り降ろした。