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精霊の声が聞こえるか 3

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「おはよ、さっくん!」
翌朝、いつもの時間に家を出ると、いつものように美桜が追い付いてきた。いつもと違うのは、美桜の後ろにシルクがいることだ。あの後「いつ姿を消せなくなるかわからない」などとシルクが言い出したため、弓ごとシルクを美桜の家に預けていたのだ。
「美桜、そいつ学校に連れて行くつもりか?」
「そうだけど?ちゃんと私の制服着てもらってるでしょ?」
「そうだぞ、サク。この姿の方が楽なんだ。それにちゃんと羽もしまって、人間そのものだ」
 確かに羽は出ていないし、服も絹川高校のブレザータイプの制服だ。しかし、シルクは常に宿っている弓の近くにいなければいけないため、腰から弓ケースをぶら下げている。
「お前、授業中は弓に戻ってろよ?」
「なぜだ?」
「なんで?」
 なぜ怒られているかわからないような顔をしてこっちを見ている二人に、俺は大きなため息をついた。
「羽がなくても制服を着ていても、銀髪の高校生なんて日本にはそうそういない」
 そもそも授業中どの席に座るつもりだったのか知らないが、二人は俺に言われてやっと納得し、シルクは登下校の間だけは人間の姿をとることになった。俺としてはそれでも変な噂になりかねないと危惧したのだが、美桜の意見を聞いて承諾した。
――向こうからシルクちゃんを見つけてもらう、ってこともあり得るからね
 まだ目星のつかない敵を見つけるための作戦の一つだ。ただ、この作戦はシルクには内緒にしてある。これも美桜の提案で、シルクが作戦を知ってしまうとわざと目立った行動をとり始めそうだからだ。さっきまではあきれるようなことを言っていたのに、やはり頭の回転が速いのは美桜だった。

「ねぇ、さっくん」
 その日の昼休み。隣のクラスから美桜がやってきた。
「どうした?」
「昨日シルクちゃんといろいろ話しててさ。私なりに推理してみたわけよ」
「さすがだな、名探偵」
「本当なら、名探偵はさっくんがやってくれなきゃダメなんだよ! 私がなりたいのはワトソンなの!」
 俺の冗談にすかさず美桜が反論する。どうやらうちのワトソンは、頭の悪いホームズにイライラしているらしい。
「あーもう! そんな話をしたいんじゃなくて」
「何かわかったのか?」
「シルクちゃんの情報量がどれくらいなのかわからないから難しいところなんだけど」
 美桜は考え事をする時特有の鋭い目になった。
「ルーフたちに及ぼされている悪影響にはかなりムラがあるみたいなんだよ。全くいつも通りの時もあれば、姿を消すことすらできない時もある、って感じに」
「それがなんかヒントになるのか?」
「さっくん、さっきから疑問符ばっかり!」
「悪かったな」
「ルーフに与えられる能力は演奏者の力量によって左右される。シルクちゃんがそう言ってたでしょ?」
「あぁ」
「だからきっと、すごい演奏者なんだよ。でもまだ不安定なの」
 美桜はすべて当たり前のように話していくが、俺の頭では会話についてくのが精いっぱいだ。相手が美桜では、疑問符ばかりになるのも仕方ないと思う。
「たぶん、原因の演奏者はまだ子ども……まぁ未成年、ってくらいには絞れると思う」
 やっと美桜の考えたヒントにたどり着いた。百パーセントそうとは言い切れないが、技術のある大人はそれなりに活躍している人がほとんどだ。その人たちにひどいムラがあるとは思えない。もちろん大人であろうと活躍していようと、音楽を奏でるのが人間である以上、常に同じ演奏ができるはずはないのだけれど。
「それでもまだかなり広い範囲だろ。小さいころから本気で音楽やって、技術のある子どもなんていくらでもいる」
「まぁそうなんだけどね」
 まったく考えが及ばずふてくされた俺に、美桜がにこりと微笑んだ。
「うまくいったらもう少し絞れると思うよ?」

 シルクが初めて姿を見せた日から一週間後の日曜日。俺たち三人はこのあたりで最も大きなコンサートホールにやってきた。
「私初めてこのホール来たけど、本当におおきいんだね~」
 ただ単純に感動している美桜の隣には、帽子で髪をできる限り隠したシルクがニヤついていた。
「なに笑ってるんだ、シルク」
「いっぱい感じるんだ、仲間の影を」
 それもそうだろう。今日このホールで行われるのは、関東圏に住んでいる優秀な中高生を集めたコンサートなのだ。演奏者は勿論、聴衆にも音楽をたしなんでいるものが多い。その中の何人かの楽器には、シルクのようなルーフが宿っているはずだ。
 誰を探しているかもわからない難易度の高い人探し中だというのに、シルクと美桜は楽しそうだった。たった一言のせいで浮かない顔をしているのは俺だけだ。
――必要となったら、本気でチェロを弾ける?
 初めて教室で美桜の推理を聞いた日。美桜は去り際に一言、こう言ったのだ。あれが冗談ではないことくらい俺にもわかる。美桜がどこまで今回の謎解きを見通しているのかはわからないが、きっと最後の一言はそれを見越してのことだ。
――弾くのだろうか、俺は。
 チェロ自体は毎日弾いている。小学生の頃からの習慣だからというだけではなく、やはりチェロが好きだから弾きたいと思うのだ。
 ただ、“本気で”と問われると困る。美桜は俺が困ることもわかっていてわざと言ったに違いない。
「さっくん、どうしたの?」
 いつもと変わらぬ顔で美桜が俺を気遣った。
「いや。そろそろ客席に入るか」
「そうだな!」
 美桜に言ったのに、元気な返事を返してきたのはシルクだった。

 ホールの客席にはすでに観客が入り始めていた。どこかの楽器教室の生徒なのか、それとも演奏者の兄弟なのかはわからないが、小さな子どもも目立つ。
 俺たちがこのコンサートを聴きに来たのは、もちろん余暇を楽しむためではない。美桜の推理が正しければ、このコンサートで演奏する人の中に犯人がいる可能性が高いからだ。とは言え、美桜の推理が外れていれば無駄足になる可能性も大いにある。
「名探偵、自信のほどは?」
「だから! 私はあくまで相棒なの!」
 そう言いながらも美桜は、しっかり自分の意見を言い始めた。
「この作戦を提案したのがまだ月曜日だったじゃない? あの時点では正直、『ダメ元』って感じだったんだけどね」
 そう言ったあと、美桜はにやりと笑った。美桜とは長い付き合いだが、昔からこの表情ほど美桜の気持ちがはっきり読み取れるものはない。おもしろいことを見つけたり、自分の計画(おもにいたずら)が順調にいくと、美桜はいつもこの表情をするのだ。今回はいたずらではないが、計画がうまく進んでいるのだろう。
「一週間。シルクちゃんと登下校してみた結果、だいたいの生徒は超絶にかわいいシルクちゃんを見て、ほほを赤らめるか驚いて固まってた」
「そうだろうな。俺は一週間の間に何度シルクを紹介しろと言われ、何度『あれはヨーロッパの方からいとこの家にホームステイしてきている子で、うちの学校の制服を着に行ってきているけどここにはいなくて……』と明らかなウソをついたかわからないよ」
「男の子は見た目に弱いからね。でも今回はそれが正解のリアクション」