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少女に恋した桜の木

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「はぁ!?わけわからん!志乃が言い出した事やん!」
「いこ、読子。あっちで話しようや」
「う、うん」
 志乃と読子は校舎の裏まで走った。
 
「どうして助けてくれたの?」
「んー、読子の小説、よう読んだら感動してもうてさ。素直に応援したろ思て」
「あ、ありがとう……」
「つーか内面描写すごすぎ。あんなんうちには書けへんわ(笑)」
「あはは。っと、ゴメン……」
 二人はぎこちなく笑い合った。
 
 それからは、よく読子と志乃は行動を共にするようになっていた。
「読子、小説家なるんやろ?」
「なりたいけど、私には向いてないかも……」
「どして?」
「結構人脈とかいるみたいだし、私そういうの苦手で……」
「そんなん、うちに任せたらええねん。他人と仲良うなるんやったら任せてや。それしか能無いけどな(笑)」
「あはははは、あ、ゴメン……」
「なにが?」
「いや……」
「うん?まあええわ。とにかくうちが動き回るから、読子は安心して小説書いとったらええねん」
「うん、ありがとう」

 読子はその後、ケータイ小説家としてデビューを果たし、後に文学としての小説家としても認められるほど有名になった。
 志乃は読子専属のマネージャーとなっていた。
 
 ある日の事。
「『月読』先生の小説、早くもベストセラーや。流石やなぁ」
「志乃が宣伝してくれたおかげだよ」
「何を仰いますやら」
「……ねえ、志乃」
「うん?」
「どうして私に味方してくれるようになったの?」
「前にも言うたやん。読子の小説を読んで……」
「ううん。私が思うに、私の小説を読んで、っていうのは違うと思うの……」
「ほほー、さすが内面描写の神である月読先生は鋭いですなぁ」
「茶化さないでよ」
「はは、ごめん。実は違う理由があるねん。
 そん時は信じてくれへん思て話さんかってんけど、ケータイ小説大賞が発表された時、うちら読子の小説と似た作品見つけて盗作にするつもりやってん。今考えると無謀やけどな」
「うん。それは聞いた。志乃あれから何百回も謝ったよね(笑)」
「それはもうええっちゅーねん(笑)
 そんでな。菜穂子が盗作扱いにできる小説を見つけて電話してきた後の話やねんけど、うち縁側でダラダラしとってん。そんでふと桜の木の方見たらな。変な傷がついとってん。ナイフで削ったような。
 そんで何となくその傷に触ったら、頭の中にイメージが流れこんできてん。信じてくれへんかもしれんけどうち、それが『前世の自分』やって気付いてん」
「前世!?」
「せやねん。ほんでな、笑わんといてな?
 前世ではうち、いじめられっこやってん」
「え、志乃が!?ありえない(笑)」
「笑うな言うてるやろ!
 ほんでうち、感動してん。いじめられっこってこんな繊細な気持ち抱えて生きとるんかって。体験したうちやから分かるけど、ほんま別の人間やで。こんな気持ちでよう生きれるなぁって思たわ。まあ前世のうちは耐え切れんと、自殺してもうたけどな」
「じ、自殺……」
「でもそういう子って絶対ええもん持っとるねん。うちみたいに人間関係であまり苦労せえへん人間には無いもんをな。
 そんでうち、今まで読子いじめとった自分が許せんで、もうこれは人生懸けてでも読子に償いせなあかん思てな。そんで今に至るっていう感じやな」
「私、全然知らなかった……」
 読子は言葉を失ったようであった。
「読子のおかげでうちもやりがい見つけられたし、月読先生様様やで(笑)」
「私も志乃がいなかったら、今頃ずっと一人だけで小説書いてたかもしれない。
 ありがとう、志乃」
「こちらこそ。ほんまにありがとう、読子」

 志乃と読子の縁はそれからも切れる事は無かった。
 いくつになっても、二人はお互いを理解し合いながら生きていった。
 

――ある春の事。

「おばあちゃん、具合どう?」
「ああ、いつもより調子ええみたいやねぇ」
「おばあちゃんそればっかりやん」
「ふふ、そうかい」
「そういえば、ずっとおばあちゃんの事『おばあちゃん』って呼んでたけど、名前は何て言うん?」
「志乃って言うんよ」
 志乃は布団でほぼ寝たきりの状態になっていた。今まさに迎えが来ようとしていた。
「おばあちゃんの人生ってどんなんやったん?」
「やりたい事やって楽しかったなぁ。みんな優しゅうしてくれた」
「ふーん、ええなぁ」

 孫娘は縁側で足をブラブラさせていた。
「おばあちゃん、この桜いつからあるん?」
「そうやねぇ。おばあちゃんが生まれる前からあったみたいやねぇ」
「ふーん。じゃあ百年以上かぁ」
「ソメイヨシノは六十年で枯れるって言うけど、この桜は不思議と枯れへんねぇ」
「ほんまに!?すごいなぁ」
「なぁ佳子。この桜はおばあちゃんに大切な事教えてくれてんよ」
「どんなこと?」
「普通の人は自分で学ばなあかんことや。おばあちゃんだけズルして教えてもろてん」
「なにそれー(笑)」
「佳子もいずれ分かるわ」
「変なおばあちゃんやな。桜が喋るわけちゃうのに」
「ふふ」

 力なく笑ったかと思うと、志乃はそのまま息を引き取った。
 桜の木は志乃にめいっぱい花吹雪を散らした。ありったけの花びらを。

 数日後、ある日の少女に恋をした桜の木が、その生を終えた。

作品名:少女に恋した桜の木 作家名:ユリイカ