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春のお通り

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風の中にさくらの匂いが混ざっている。
空は薄雲り、小雨などもちらついている。
立春を過ぎてもなお寒い日が続き、毎朝の犬の散歩には、みかん色のマフラーが手放せない。
今日も犬を連れて外へ出る。私が飼っている犬は灰色で大きい。狼の形質を濃く受け継いでいる種類だ。心根の優しいやつで、しとしとと左隣をついて来る。

 歩道を歩いていると、さまざまなものとすれ違う。
 まずは車である。私の右側をすさまじい速さで駆けてゆく。
それは赤であったり青であったり、時として黒であったりもするが、緑や白であることはない。
あまりにも速く走るので、脚は何本ついているのか、と整備工に訊ねたことがある。
水色の帽子を被った整備工は、前後に4本ずつ生えているのだと教えてくれた。
それら一本一本は細くて頼りないそうだが、8本も揃うと鬼の脚2本分の速さが出るらしい。
その後も車について熱心に語って聞かせてくれたが、うまく要領を得なかったので、後半は聞き流し、整備工の作業着にいくつポケットがついているのかを数えることに集中していた。合計で108ついていた。

 犬と一緒にしとしとと散歩を続ける。
 郵便ポストの隣に缶ジュースの自動販売機を見つける。
飲み物のボタンの上には、『冷やし中』という表示がほとんどのものに出ている。
機械の中で冬の期間、絶えず温め続けていた飲み物を冷やすのにはさぞ時間がかかるだろう。春先ではまだなまぬるく、お客に出すには忍びないと思っている自動販売機も多いと聞く。
『冷やし中』のさくら味みかんジュースをひとつ買う。
春が近くなると、どんな食べ物にも『さくら味』が出回る。無論、みかんジュースとて例外ではない。
 
作品名:春のお通り 作家名:にょす