月の子供
「かえりたい。」
ぽつりと口からすべり落ちた。
「かえりたい、かえりたい、かえりたい。」
ひとつ落ちると止めどめく溢れてくるのだった。
「かえりたい、かえりたい、」
「ああ、 かえりたい。」
月の子供等が歌う声が聞こえる。
一音一音聞こえる度に、空に浮かぶ丸い月が大きくなる。
頭はどんどん上昇し、夜空を覆うほどに膨らんだ月に吸い込まれた。
耳の奥では月の子供等の歌声が反響し続けている。
目に映るものは白ばかりであった。
白い中でもより白く見えるものが目の前を横切った。
猫であった。
紺色の首輪にちいさな金の鈴をつけた猫はこちらを見ることもなく、彼方の方向へと駆けて行った。
長いしっぽの曲線が目に焼き付いた。