月の子供
月の子供らとは秋に出会った。
男の子は名をシロウ、女の子の名はカグヤと言った。彼等はよく似た双子だった。透き通るほどに白い肌をして、すすきのようにふわふわとした、薄金色の髪をなびかせ、いつも揃いの白い雨合羽を着ていた。
深夜2時47分は彼等が最も好む時間だった。雨が振っているとなお機嫌がよく、近所の猫たちを引き連れては街中の水たまりを踏んで回った。
出会いはこんなものだった。
家の中で猫を一匹飼っていた。真っ白な毛並みをして、首に巻かれた紺色の首輪にはちいさな金の鈴がついていた。猫が動くとちりちりと細やかな音を立てた。
突然居なくなったのだ。
窓にも玄関の扉にも、きちんと鍵をかけてから仕事に出掛けたはずだった。夕方家へ帰り着くと、すっかり姿を消していた。風の強い、水曜日のことだった。
その日から毎晩猫を捜しに歩いた。
どんなものよりも大好物だった青い袋に入った煮干しを腰からぶら下げて歩き回った。こうしていると煮干しの匂いを嗅ぎ付けて帰ってくるかもしれないと思った。
建物と建物との間の細い路地や背の高い草が生い茂った空き地、いくつも穴の空いた岩がある公園など、猫の好みそうな場所はどんな場所でもすべて捜した。おおい、おおいと呼んでみても返事があるはずはなかった。
そうして腰に煮干しをぶら下げていると、月の子供等が寄って来た。始めはそろそろと後を着いて来るばかりだったが、やがては近くへやって来て、ぐるぐる、ぐるぐると何度も周囲を回った。
月の子供等の他に寄って来るものもなかったので、持っていた煮干しをすべてやった。子供等は青い袋を二人で抱えて、白い雨合羽を翻し、濃紺の闇の向こうへと消えて行った。
それ以来時折彼等を見掛けるようになった。ある時は瓦屋根の上で円を描きながら踊り、またある時は電信柱の上をぴょんぴょん飛んで回っていた。どんな時でも二人して、揃いの白い雨合羽を着ているのであった。
夜更けの猫探しは半月ほど続けてやめた。帰って来ないのならばそれまでと思うことにした。そうは言うものの帰り着く家がわからなくならないようにと、物干竿の隅には煮干しをぶら下げることを忘れなかった。
いつの間にか煮干しは月の子供等のためにぶら下げられるようになっていた。
いつも物干竿の両端に6本ずつ下げている。毎日夜更けにやってきては、ベランダで食い散らかして帰るのだった。