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しっぽ物語 4.蛙になった王子

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 少し間をあけ、開いた胸元を鑑賞してから、Dは女の手にボールを返した。離す直前に、冷たい指先を軽く握る。
「それ、リハビリ用だろ。俺の知り合いが腱鞘炎になったとき、似たような奴持ってた」
 女は無言のままだった。ガラスのように艶のない青灰色が、Dのこげ茶色の瞳にぴったりと吸い付いている。引いてしまった身体は、こちら側へ戻ってくることがなかったが。
 しばらく返事を待っていたが、名前は思ったよりも早く呼ばれる。肩を竦めると、Dは紙袋を掴んで立ち上がった。
「怪我、お大事に」
 むき出しの肩を、労わっているようにしか思えない手つきで叩く。そばかすが多いのはいただけないが、及第点。
 やはり私立病院より、治療費は格段に安い。待遇の悪さも待ち時間の長さも、値段相応というところなのだろう。仕方がない。教会が運営しているだけあって、治療はしっかりしているし、それに、時には思いがけない出会いが。


 ガラスのドアを押し、日の光に眼を細めようとしたところで背中を強く押された。二つの支点、柔らかい掌。バランスを崩し前のめりになったときは、一体何が起こったのか理解できなかったが、今ならはっきりと思い出すことができる。確かにDは、見ていたのだ。猛スピードで突っ込んできた車にわき腹を掠られ身体が回転した時、屋内に駆け戻っていく後姿が落とした、金色のボールを。