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しっぽ物語 4.蛙になった王子

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 握り締めていた処方箋を取り上げられる。また痛み止めの処方量が増えた。間髪いれずにはさみで切り開かれたワイシャツの下から現れた肩を、Dは見ることが出来なかった。ただ腕を掴み、無造作に持ち上げられたときには、流石に抗議の意味を込めてわざと大袈裟な悲鳴を上げてみせたが。医者は平然として、骨は折れていませんと言った。
「念のためレントゲンをとりましょう。まあ、そのうち見舞金が出ますよ」
「金の問題じゃない」
 一度医者の顔を睨みつけてから、Dは視線で車のバンパーを示した。
「ああいうのに乗ってる大企業には、一発かまして少しは灸をすえるというか」
 ふと、見覚えのある後姿に眼を瞬かせる。その間に、最速の名に恥じないスピードで、コンチネンタルは元来た裏通りを消えていく。コンチネンタル・フライング・スパー。憧れの車。よく見かけるホテルの駐車場。薄暗く、黄色い明かりの中ではもっと濃く見えたボディは、記憶よりもずっと明るい色をしていた。
 思い至った途端、愕然とする。
「なんてこった」
 エンジンの余韻が消え去るまでの間も与えてくれず、担架は持ち上げられる。急速に失われつつある力を振り絞って無傷の右手を持ち上げ、頬に引っかかる髪をはね退けた。
「あれ、うちの会社のお偉いさんじゃないか」
 痺れも痛みも少しずつ収まり、今は肩と腕と、腰一帯の鈍い疼きしか残っていない。素人判断でも分かる。どうせ、打撲程度だ。頭上で疲れきった表情を露にする医者たちに調べさせたなら、もう少しこねくりまわして複雑な症例を付けてくれるかもしれないが。どっちにしろ、裁判に掛ける費用の方が勿体無いかもしれないし、なにやら相手は物凄く急いでいたようだし、この腰だって、元から少しは痛かった。そう納得させた。
簿記の勉強をしたこともあるDには、正義を振りかざして得る賠償金が、無断欠勤がばれてクビになった場合に失われる、今後の給料に匹敵するとは到底思えなかったのだ。
 痛みと失望を紛らわすために今Dが出来ることと言えば、情けない呻きを愚痴に変換させることだけだった。
「一体、なんでこんなことに」



 先ほど行きつけの理髪師に刈り込ませたばかりの髪に指を通し、足元の洋品店の袋に押し込まれたネクタイを引き寄せながら、Dは整形外科の担当医に笑って見せた。
「8時間ずっと立ちっぱなしですから」