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ダイエットコークの甘さ

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 テレビに目を戻した遙紀を残し、私は仕方ないなと台所に行った。
 冷蔵庫を開けると、ひんやりした空気が私を包んだ。ダイエットコークとクーを取り出した。
 とくんとくんとついでいく。コップの6割くらいに注ぐ。
 ついでしまうと、2本のペットボトルを冷蔵庫に戻す。
 「これクー?」
 背中から聞こえた声。遙紀はこちらに近づいてきた。
 「うん。りんご味」
 「こっちは?」
 「ダイエットコーク」
 「げ」
 遙紀はカエルみたいな声を出した。私をまじまじと見つめて言う。
 「香音、ダイエットなんて、本物のコーラじゃないよ」
 「うそ。甘いじゃん」
 「砂糖の甘さとは違うだろ」
 「違わないよ」
 味音痴のくせに。遙紀の舌は甘いものだけに働くのかもしれないけど。
 「今度飲み比べてみろって、わかるよ」
 「やだよ」
 遙紀はダイエットコークをじろっと見て、クーを飲んだ。
 立って飲まないでよ、と言おうと思った。でも遙紀に先を越されてしまった。
 「そういえば、俺、言うことあるんだった」
 「え?」
 「彼女できたんだ、昨日」
 私は遙紀じゃなくてクーの入っているコップを見つめた。
 「ふーん・・・」
 なんだかダイエットコークを一気に飲み干したくなった。私はダイエットコークのコップを右手に持った。
 すると遙紀は言い訳をするように話し出した。
 「あ、えっと、今まで言わなかったのは、ほら香音ふられたばっかしだから・・・・」
 「もううるさいな!振られた振られた言わないでよ」
 ごくんと1口コークを飲みこむ。きつい炭酸が喉を下っていく。
 「そんなの気にしないでよ。気遣われると変な気分だから」
 「そっか」
 遙紀も1口クーを飲んだ。ひどく甘そうな感じがした。
 「彼女ってどんな人なの?」
 遙紀はぱっと笑顔になった。彼女は明るくて、おしとやかで、優しい同僚らしい。私はダイエットコークをがぶりがぶりと飲みながら、幸せな恋愛の話を聞いた。
 「そうそう、記念写真的なのも撮ったんだ」
 遙紀はジーパンのポケットを探ってケータイを出そうとした。けれど出てはこなかった。見なくたっていいと瞬間思った。
 「パーカーは?」
 コンビニに羽織ってったやつはソファに脱いで置いてあったはずだ。私がそう教えると、遙紀は軽い足取りでソファに向かっていった。
 遙紀が台所からいなくなると、なぜか私の足から力が抜けていった。
 へなりと、コークを持ったまま床に座り込む。
 ぐるぐるとめぐる今日1日の記憶。
 めぐる、満月になりそうでなれない月。
 ため息とも声ともどちらにもとれない音を、炭酸に染まった喉から出す。
 遙紀が永遠に来なければいいと思った。
 ほおに伝う涙の理由なんか知らない。
 ただ、ダイエットコークの偽物の甘さについて私は考えていた。 



 
作品名:ダイエットコークの甘さ 作家名:Kisg