ROREPME EHT
2.現在3月31日昼
空港からタクシーに乗り、私は指定されたホテルを目指した。運転手は沖縄の独特なイントネーションで話しかけてきてくれるが、私はどこか上の空だった。思い出すのは二年前のエイプリルフールのことばかり。
タロットカードをそのまま扉にしたTHE EMPERORと書かれた大広間に集められた私たちは用意された酒や料理を飲み食いし、なんとなく楽しく時を過ごし、そして日付が変わる頃に賢治の口から解散を告げられた。最後に彼から集められた106人に渡されたお土産の中身は約三百万円の大金であった。
そこで多くのものがようやく身の危険を感じた。私に限らず大半の者は素直に三百万円を受け取ることはできなかった。賢治の両親が何があったのかと賢治に詰め寄っていたが、彼は何も答えずに、ただ来た時と同じように私たちをバスへと誘導した。
何ともいえない後味を感じながら、私たちは日常生活へと戻っていった。
ただ一人、賢治を除いて。
彼はあの日を境に私たちの前から姿を消した。
ホテルに入ると、すでに彼女は私を待っていた。約速通りに小さなテーブルにタロットカードを広げている。
どこにでもいそうな二十代半ばと思わしきその女性は立ち上がり、小さく頭を下げた。
「初めまして。前々回の優勝者のハングドマンです。女だけど」
私も簡単に自己紹介をして、席に座る。
「よく来たね。沖縄まで。そんなにゲームについて知りたい?」
彼女はルージュで塗り固めた赤い唇を舐め、カードを切る。下唇を噛んで頷いた。
この二年間、あの日賢治の身に何が起こったのか私は調べ続けた。調べずにはいられなかった。賢治と会場の人間の間で交わされていた会話から交わされた優勝者、賞金三億円、参加者という単語から何らかのゲームが行われていたのだと確信して、ありとあらゆるゲーム、パーティ、オフ会、サークルに関する情報を集めた。
しかし、なかなか情報は引っかからずに二年の月日が過ぎようとしていた。諦めかけていたところに、キーワードとしていたタロットカードに関するコミュニティにとある書き込みを見つけ、コンタクトを取って、私は彼女が指定した沖縄まで飛んできた。
「私は彼氏に集められて、ある城を模した建物へと連れていかれました。そこで何も教えられずに、時間だけが過ぎていって……賢治が優勝したことをアナウンスで告げられて、家へと帰されました。それで賢治は」
「何人」
「え?」
「何人集まったの?」
「106人だったと思います」
「それってあんたの彼氏が知ってる人ばっか?それともあんた以外は知らない人ばかり?」
「……賢治の家族や友達や、私の親戚などでしたけど」
それまで無表情だった女の顔がくっと歪んだ。
「それはそれは、最低な男ね」
彼女はカードの山から吊るされた男のカードを私の前に放る。逆位置の吊るされた男は穏やかな微笑を浮かべて、私の視線の先に座る彼女を見上げていた。
「教えてあげる。どれだけあんたの男が最低か。その最低さゆえにあんたがここにいるか。……どれだけ私が最悪の選択をしてここに生きているのか」
作品名:ROREPME EHT 作家名:高須きの