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Dimension-ZERO

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そこで本棚を再度よくよく見ると、
ちゃんと製本された本のような物もたしかにあるが、
ノートや、中には紙を紐で束ねただけのものまである。

しかも、一番最初に面識を持った男のように、
お金を払って置いていく者もいれば、彼のようにお金を払って、持っていくこともあるようで、
ますますこの本屋の用途が謎に包まれた。


カイがレジを済ませたのを見計らって、涼はこの店の店主に頭を下げる。

結局、彼が何者なのか、まだ自分にわからなくても、
この人がすべて解決してくれたことに変わりはないのだ。


「紅茶、ごちそうさまでした。」

「気に入ったなら、また是非飲みに来なさい。年寄りは暇だから」

「次に来るときまでにくたばってんなよ」


口々にそんな声を出しながら、その声にカウベルの音が重なる。


カイが開けたそこからは春の陽気のように暖かい風が吹き込んで来た。
凍えることないその空気が涼の髪を揺らし、これはマフラーはいらないなあと口元をあげた。

こちら、ゼロ地区に来てから初めて口にした、小さな笑い声だった。




こぽこぽと大きなフラスコのような球体の中には飴色の液体が
ゆっくりと混ざり合いながら下の筒状器具の電熱によって沸騰する。
ガラスの球体に浮かび上がっている光の文字は、
この店に時渡りをしてきた女の子、柳涼、と名乗った女の子には、読むことはできなかったが、
この球体の中で自らが独自にブレンドした紅茶は気に入ってくれたようだった。

先ほどまで、若者ふたりで騒がしかった店舗カウンター奥の小さな部屋が、
すっかり静まり返ったさまは、なんとも寂しげだ。

(いや、私が、寂しいのかもしれないな。)
年はとるものではない。
と、カウンター下の棚から、いつものように新聞を取り出すと、
まだ読みかけであったそれを広げて、長年愛用のスタッキングチェアに腰掛ける。


カラカラと低く鳴るカウベルは来客の知らせ。それさえわかればジーンにはこと足りる。

さて、暇な店は営業再開のようだ。


作品名:Dimension-ZERO 作家名:りぃ