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Dimension-ZERO

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「そんな人間ではないよ、彼は」

「いいや、そんなヤツだってアイツ」


そんな会話を聞きながら、そう、涼が聞く中で、知らない単語が複数あることに気づく。


「そう言えば、デリートって何ですか」

「そうか、君は知らないことが多いんだったね。」

知らないことはどんどん聞いてくれていい、少しでもここのことをわからなくてはいけないよ。と、
ジーンは自身の言葉に頷いた涼を見ながら説明をカイに促し、自らは席を立った。
紅茶を注ぎ足しに行ったようだ。


「簡単に言うとデリートはつまり、この世界から寿命を終える前に消えることだ」

「死ぬっていうこと、かな」

「死ぬ?」


首をかしげたのは今度はカイのほうだった。
どうやらこの世界では、死ぬ、という単語はないようだ。

カイは、涼が理解できていないのだと判断したらしく、更に詳しく話を進めていく。

「この世界はゼロ地区って言われてる。戸籍は役所が管理していて、寿命は役所が種族別の社会貢献度によって決めている。人間は一番数が多くて、規定の寿命は八十八年。これが短くても長くてもおかしい。寿命が来る前、つまり八十八未満でもし人間が死んだら、デリートされたっていう言葉を使う。そしてデリートされれば戸籍から消える。役所の戸籍から消えると、そいつのデータ、身体情報がない。よって、生まれなおしができない。ここまででわからないところあるか?」

「待って、すごく初めて聞くことばっかで、ちょっと整理するから」
「えええ…どうしろってんだよ」

しかし、整理すれば整理するだけ、涼はこの世界のことを何も知らない自分を自覚した。寿命はそんなに一律に管理などできるものなのか、そしてデータを残す?そんなことしてどうにかなるなど聞いたことがない。でも彼が嘘を言うとも思えない。そんなドッキリを仕掛けたって彼には何の得もないからだ。ここはそういうことがあるのだ、と無理にでも自己暗示をかけていくしか、現実問題を解決する策はないのだ。

「つまり、そのデータってのがあれば、また生まれて来れるの?」
「そうだけど?」

「それって、普通は、死なないってことなのかしら…」

「もう生まれてこないことが、死ぬっていうことなら、そうだと思うぜ」

「…嘘みたい」
「嘘じゃねえよっ」
「そう、みたいね。」


信じないと、
元居たところと何もかも違うここで、生きていける気がしない。

肩を竦めて見せると、カイも自身の言葉を嘘呼ばわりしながらも、
一応、涼が理解しようとしている。ということを認識したのか、
若干彼を包む警戒したような空気が和らいだ。


「…それでデリートってどういうときに起こるの?」

「………。」
「それって、きっとよくないこと、だよね。」


役所の意思に反する。ということは、
少なからず社会悪の部類に入るのだろうと、それは涼にもわかる。

少し神妙な面持ちになったカイは、ふいに涼の鎖骨真ん中辺りを手の甲で軽くノックした。


「ここの中を、誰かに弄られるとデリートされる」


「え、それって」
(つまり、殺人ってこと?)

彼女の反応に、頷きながら
「ああ、犯罪だ」
という、彼の纏う張り詰めた空気が移ったように、涼は身体を強張らせる。

この世界でもそういうものは存在するのだ。
と頭で理解するのと同時に、如何に自分が無知である故に、紙一重で危険な状態であることを認識する。
ここの治安の状況など、気にかけてもいなかったが、
人が住んでいる限り、そういうことにも気を使わなければならないのは当たり前だ。

呑気、と称されたことも、何も間違ってはいない。


「ここの治安ってどの程度なの?」
「うーん、どの程度っていう基準がよくわかんねえんだけど、最悪ってわけでもない。」

「ということは、そういうものの回避手段はあるのね」

「それこそ、ある程度なら、としか言えねえや」

例えば?と問えば、
説明するのが難しいから簡単にだけ、と置いて話を続ける。
ジーンはふたりの会話を聞きながら黙って席に着いた。


「まず普通に生活しててデリートすることはない。戸籍は役所、というか中央庁ってところが管理してて、セキュリティはこの世界では一番いい。」

「ふぅん、じゃあ結構安全なんじゃない」
「でもまったく地区全体が危険がないってわけじゃなくて、しいて言えば紛争手段が合法化されてるんだ」
「えぇ…どういうことなの。つまり喧嘩オッケーってこと?」

「まあ、そうだな。」

信じられない、というように涼は前かがみ気味になっていた姿勢を正す。

争いが合法などということがあっていいのだろうか、
でも実際問題、ゼロ地区とカイが言う、ここはそうらしい。


「これは、説明するより実際に街とかで見たほうがいいと思う」

俺達にとっては、別に疑問じゃないから、本当に説明が難しいんだ。と言って、
おかわりした紅茶を飲む老人の方を見るが、
視線を寄越された彼も、どうやら表現方法が見出せないようで、苦笑いにとどまった。

確かに、習慣づいていたり、常識、とされるものほど説明するのは難しいんだろう。

自分だって元居た世界を説明しろと言われて、
当たり前が当たり前でない人間に、一からすべてのことを教えられるかと言われれば、
百パーセントは絶対に無理だと答えると思う。

百聞は一見にしかず、とは中々馬鹿にできない。


「説明できないって言うのは、なんとなくわかる」

と言うと、カイは少し安心したように顔を緩めた。


タワー建設の為にテーブルに出していたカードを、とんとんと叩いてまとめると、
彼が羽織っているブラウンのファー付きダウンと学ランをめくり、ベルト横についている携帯ホルダーのような入れ物に仕舞った。
なんと、カードは持参だった。

そんなにタワー建設が楽しいとは思えず見ていると、


「ああ、これのことも後で話す」


そう付け加えられて、別に、自分はトランプタワー建設に興味はさほどないのだけど、彼はそんなにこだわりがあるのだろうか。
などと涼は一人考え込んだ。
続けて、カイが席を立ったので、自分もつられて立ち上がる。


ジーンが、何かを思い出したように、ちょっと待ちなさい、と言って、
テーブルのすぐ横にある、木製ワゴンの、一番上の小引き出しから、カードを一枚、涼に手渡した。
意味もわからずに黄色い電子文字と記号が並ぶそのカードを凝視する。

これは、カイが先ほど、タワー建設に用いていたものと似ている、と思い、老人を見上げる。

「政府の人間は、君に戸籍がないと知ったら、いぶかしんで、何か変に突っかかって来るかもしれない。それは、君に危害が及ぶごとを退けるお守りだ。」

くすんだ色の瞳は少し細められ、頭を撫でられた。
思っていたよりも、その手が力強く、ふらつくと声を出して笑われる。
笑い方はほっほっほ、という老人のそれだ。なんだか腑に落ちない。


カウンターへと戻るとカイは勘定をするためにレジの前に立つ。
紅茶代かと思ったが、ここはどうみても喫茶店ではない。
ジーンは店の中を埋め尽くす本の中から、一冊取り出して持ってくる。

薄いそれは製本された本、というよりは、

(…ノート?)

作品名:Dimension-ZERO 作家名:りぃ