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デッサンは4日目に完成する

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【最終日】

「……何が、どうなってるの」
 雅子は、視界が真っ暗になっていくのを自覚しながら、よろよろと両膝をついた。ひんやりとした床の感触を感じる暇もなく、そのまま倒れ伏す。目の前の光景を受け入れることが出来ず、ただただ唇が震え、嗚咽を漏らすことしかできない。
 倒れた際に発せられた物音を聞きつけ、夫の孝司も駆け寄ってきた。そして同じく、眼前に広がる有様をみて驚愕の色を浮かべる。
「なん……」
 自分たちの息子の部屋が、真っ赤に染まっているのだ。室内に取り付けられた部屋干し用の竿に紐が通され、そこに愛する息子がぶら下がっていた。ゆらゆらと危なげに揺れるそれには、生気のかけらはとうに感じられなかった。
 どうして、と言ったつもりの孝司の口からは、声が出ていなかった。かすれた息の音しかせず、ひゅーひゅーと喉からもれる微かな物音だけが、辺りに響いていた。
 息子、祐輔の左手首から、絶え間なく血が滴り落ちていた。
(……あれは、なんだ)
 滴り落ちる血を受け止めるように、何かが床に横たわっている。その正体を知った瞬間、孝司の背筋に寒気が迸った。
 同時に、妻の雅子もそれの正体に思い至ったようで、鋭く息を呑む音がした。
 あれは……、
 あれは、昨日祐輔が背負って帰ってきた、女の子の姿のマネキンだ。



『――お昼のニュースです。今朝7時頃、○○県A町の田辺孝司さんの自宅から、長男祐輔さんの遺体が発見されました。自室で首を吊っているところを家族が発見し、自殺とみられています。祐輔さんは、同県C高校の2年生で――自室には、祐輔さんの遺体の他に、血で塗られた女性のマネキンが共に見つかっており――』
『――目立たない感じで、教室でも大人しくて、あんまり話すところ見たことなかったです。なんか、美術室にずっといて、そこにあったマネキンにずっと話しかけてて、マネキンの絵描いてたりしてました。ずっとそのマネキンと一緒にいて、背負って運んだりしてました。あんまりこういうこと言うのどうかなって思うんだけど、普段からおかしいやつで、――』