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デッサンは4日目に完成する

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【一日目】

「君のこと、描いてみたいのだけど」
 美術室の隅で、彼にそう声をかけられた。この学校に来てから私はずっと一人でいて、同じような仲間は周りにたくさんいたのだけれど、でも、心の隅に巣食う不安の影は、ずっと消えてはくれなくて。
 集団に紛れてそっと息をしているような私に、彼は目を向けてくれたの。
「……私?」
「そう。初対面なのにいきなりこんなこと言っちゃうと、怪しい奴だと思われても仕方がないとは思うのだけど。……ずっと、」綺麗だなあと、思っていたんだ。なんて、甘い言葉で囁かれてしまうと、私はそれだけで、平然としてはいられなかった。
「私なんかで、よければ」
 恥ずかしくてたまらなかったから、伏し目がちにそう言ってみる。
 彼の反応がすぐには表れなかったから、少し不思議に思ってそっと目線を上げてみると、顔を真っ赤にさせて言葉を失っている様子がみえたから、こっちまで何も言えなくなっちゃった。
 初対面の女子にいきなり声をかけたり、描かせてとか綺麗だとか言ったりするくせに、簡単に赤くなるのね。
 それがたまらなくおかしくて、思わず笑っちゃった。
 つられて微笑む彼は、とても可愛らしかったわ。

 私がいつも一人でいることには訳があるの。
 自分でこんなこと言うのもなんだけど、見た目的にも目立つタイプだし、あまり喋らない方だから人も寄ってこないし。だから、必然的に一人になっちゃう。つるむのも好きじゃないし。
女の子って、どうして常に複数人で行動したがるのかしら。私にはどうしても理解できないの。
「今更だけど、初対面の男にいきなり声をかけられて、驚いたでしょ」
 放課後、他の生徒はほぼ帰ってしまった夕闇の浸る美術室で、私と彼は、向かい合って座っていた。椅子を引いて座らせてくれた彼の所作は、女性の扱い方をきちんと心得ていて、素直に好感がもてた。
「そんなことない。あなたみたいな格好良い人に声をかけられて、素直に嬉しいわ。……それに」
 この私を、いつも一人でいるようなこんな私の存在を、見つけてくれたことが嬉しかったの。普通の人なら、無視するのに。
「それに?」
「……いいえ、なんでもないの」
「そう? それはともかく、僕が格好良いだなんて、君の趣味は変わっているね」そう言って、右手を口元に当てながら笑う彼。夕日の光を浴びて、暖かい陰影に包まれた彼の姿は、確実に私よりも綺麗にみえた。
 さっそくスケッチブックを開き、デッサンの準備を始めた彼に気付かれないように、そっと溜息をつく。
 どうか、彼が最後まで正気に戻りませんように。
 私なんかに声をかけたことを、後悔なんてしませんように。