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白と黒の世界はこんなにも鮮やかだ

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 したんだけど、と言い切ることは出来なかった。
 母さんの手が僕の左頬を軽く叩いたからだ。反動で傾いた首をぎこちなく直すように恐る恐る、母さんを見遣る。
 母さんは、静かな容貌をして僕を見据えている。

 「タダ払いなんて言わない。いつもお世話になってんだから、お礼なんだよ」

 「…はい。ごめんなさい」

 「何出したの」

 「ずんだ餅ひとつ」

 「ん、いいんじゃない。季節だし」

 母さんは僕の頭を撫でて一息ついた。それからくす、と笑った。

 「でもそれあなたの好みね?」

 え、でも。

 僕は今どんな顔をしてるんだろうか。母さんは僕から視線を外して、まあいいよ、と息を吐く。

 「あの人も長いことうちを御贔屓にしてくれてるね、嬉しいことよ」

 母さんが言うには、おばあさんの代からお世話になってるそうだ。
 ていうことは、彼のひい祖母さんから、ということだろうか。

 「―――…」

 「おやつ食べといで。桜四郎が居間で食べてるから」

 僕が黙っていると、母さんはこの話はもう終わりましょうと言うように、話題を変えた。

 はい、と声を出して返事をして、居間に向かう。
 店番は母さんにバトンタッチだ。小豆色のエプロンを外して畳む。


 しかしふと、同じ小豆色のエプロンを着けながら、母さんが思い出したように言う。

 「あの人たしかお子さんいたのよね、」

 僕はやっぱり母さんがおばさん中心にあの家の家族構成を考えてるんだなと思った。
 ていうことはやっぱり彼のひいおばあさんの代からうちの商品を買ってくれてるんだ。少なくとも母さんはそう認識している。

 「あそこの息子さん、なんて名前だったかな――…。確か柚と同い年よね、知ってる?」

 母さんが聞いてきた。
 同じクラスだと伝える。

 「たかし。…卯崎、京」

 そう、と、母さんはまたにっこりと笑った。

 「仲良くしなさいね」

 母さんの真意はなんとなくわかったけれど、本人を前にして出てこなかった彼のフルネームを言えたことが、酷く可笑しいと思った。