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つるさんのひとこえ 4月編 其の一

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 完璧。さらっと受け流したようにして話題を変えたぞ。やればできるじゃないか、僕。
 「否定しないってことは、そうなんですね。あ、時間なら大丈夫ですよ」
 玉砕。ムキになって必死に反論すればよかったのか。全くダメじゃないか、僕。
 「あ、え、えっと、こいつのメンテナンスなんですけど、どうすればいいのかなと思いまして」
 「そういうことですか。今日はこれ、使いました?」
 「だったら、メンテナンスは必要ないですよ。メンテナンスと言っても、これは使った分を補充するだけですから」
 そういうものなのか。それなら特に知る必要もないだろう。
 「分かりました。ありがとうございます」
 「知りたいことはそれだけかな?」
 彼氏、ボーイフレンド、若しくはそれに準ずる存在の方はおられますか?なんてことは今の僕と月極さんの関係じゃ、口が裂けてもきけない。そういうのはもっと仲良くなってからでしょうよ。でも仲良くなって彼氏の存在を知るっていうのもそれはそれでキツいよな。
 「ないんだったらお先に失礼します。昨日みたいに整頓と鍵を――あ、犬島君が同性愛者だってことは誰にも言わないから安心してね。それじゃあまた明日」
 忘れてた!月極さんは僕が同性愛者だと誤解したままだ!
 「ちょっ!月極せんぱ――」
 呼び止めようと後を追って廊下に出たが、時既に遅し。階段を降りる月極さんの後頭部が見えただけだった。
 入学してからまだ三日しか経ってないのに、よくもまあ、色んなことが起きるな。
 自己紹介から始まって、マキの煙草、機関銃、同性愛者疑惑。
 今まで平穏に過ごしてきた僕にとって、些か荷が重すぎる。
 ただ一つ、今言えること。鰐木田先輩、絶対に許すまじ。
 先ほど悟ったことを既に忘れ、同性愛者疑惑の発端である人物にささやかな復讐を誓った僕は、律儀に戸締まり整頓をして部室を後にした。

 4月8日につづく