小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

初恋の頃

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 

 Q.好きな女性のタイプは?
 A.約束を忘れないでいてくれる人ですね。

 約束……
 あれを約束と呼んでいいのかな?


 Q.いま恋人はいますか?
 A.います。でも、忘れられてしまっているかもしれない。

 覚えてる。
 覚えてるよ。
 高校にも行かず、『俺、イタリアに行く』って一言で欧州に渡って、それから十五年も連絡してこなかった、私の幼馴染。


 Q.それはどういうことなのかお聞きしても?
 A.約束したんです。三十になったら迎えに行くと。

 『三十歳になったら戻ってくる』
 『そしたら、結婚しよう』


 Q.それが日本に帰る目的なんですか?
 A.はい。って言ったら、いろんな人に怒られてしまいそうです。

 怒るよ。
 当たり前じゃない。
 私の青春を返せって怒鳴り散らしてやるんだから……


 Q.
 A.

 最後の質問には、質問した内容もその答えも書かれていなかった。

「編集長、二番にお電話です」

 反射的に受話器をすくい上げ、二番を繋ぐ。

「もしもし?」
「最後の質問だ。『Q.俺と結婚してくれないか?』」

 受話器から聞こえてきた声に、呼吸を忘れてしまった。
 視界は歪み、思考は停止寸前。

「は……」
 い。と言おうとする口をムリヤリ閉じる。
 一途に待っていたけれど、こっちにだって女のプライドってもんがある。
 こんなバカ男は、簡単に許しちゃいけない。
 自分がどんなことをしでかしたのか、思い知らせてやらなきゃいけない!

「十五年分、キッチリ返してもらうからね! 話しはそれからよ!」

 ガチャン。

 耳が熱い。
 心臓がドキドキしてる。

「編集長、おめでとうございます」

 遠く離れた彼を想う日々が苦しくて。
 逃げるように仕事に打ち込んで。
 いつの間にか何も感じなくなって。

「十五年も一途に待っていたのよ。バカだと思うでしょ?」

 夢に向かって走る少年に恋してしまったおバカな少女は、想いを眠らせたまま年老いて行くんだと思ってた。
 色恋とは無縁のままで生きて行くんだと思ってた。

「いえ、そんなことないです」
「ありがと」

 頬を伝う涙に溶けて込んでいる気持ちは、十五年前と何も変わらない。

 私はまだ“初恋の頃”のままだ。



               ― 初恋の頃 了 ―


作品名:初恋の頃 作家名:村崎右近