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初恋の頃

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放課後に校舎裏で



 ケンカした。
 思い出すのもバカらしい理由で。

 言い返してきた相手に、さらに倍返し。

「もう知らない」

 二人が交わした最後の言葉。

 わたしは待っていた。
 電話が鳴るのを、あの人からの着信を知らせるメロディーが奏でられるのを、今か今かと待ちわびていた。

 ずっと待っていた。
 それは胸が締め付けられ続ける苦しい時間だった。
 わたしはケンカの原因が自分にあったことぐらい分かっていた。
 だけど、わたしから謝るなんて絶対に嫌だった。

「こういうときは、男から謝ってくるものよ」

 わたしは独りごつ。
 わたしにできる精一杯のエール。
 to myself, from myself.
 ただの強がりで、ただの自己中心的思考。

 わたしのわがままをどれだけ受け入れて、どれだけ聞き入れてくれるのか。
 それがわたしへの愛を示すバロメーター。

 だから早く電話を鳴らして。
 “ごめん、悪かった”って、わたしへの愛を囁いて。




 ……電話は鳴らない。


 いつから?
 わたしはいつからこんな風になってしまったんだろう?


 駆け引きとか、主導権とか、そういうことばかりを気にするようになってしまった。
 恋を重ねれば重ねるほど、人を好きになるっていうことがどういうことなのか、どんどん分からなくなっていく……
 誰かを好きになる度に、どんどん素直になれなくなっていく……

 相手のことを考えるだけで幸せだったはずなのに。
 好きでいることが何よりの幸せだったはずなのに。

 そのときの気持ちはいまでもまだ覚えているのに。



 放課後に小学校の校舎裏で、“好き”って言ってくれたあの男の子、いま何してるのかなぁ……


               ― 放課後に校舎裏で 了 ―
作品名:初恋の頃 作家名:村崎右近