あわないアンタが嫌いだ。
ドアを大きく開け放して、階段の暗がりに消える生徒会長のあとを、俺はすぐ追わなかった。キィィ、ガコンという、古い鉄製の扉にありがちな遠慮のない金属音で、あの人の背中は見えなくなった。
太陽の残り火が赤朽葉色に光らせるドアノブに視線をやる。さっきまで、生徒会長の手があった位置。
俺は、まず人差し指で、それから右手で握って触れて、金属に残っているはずもないあの人のぬくもりを探りながら、見知らぬ他人を呪っていた。
アンタが嫌いです。お父さん。生徒会長がとことん変人なのも、お守りに手間がかかるのも、こっち見ないのも気づかないのも、全部アンタのせいだ。生徒会長の話を聞く限り、あなたはあの人並みに変人みたいだから、多分俺の性にもあわない人なんだろう。
だから、アンタと俺が多分一生会うことが無い、ってことについては僥倖と言うしかない。生徒会長がアンタから逃げ回るなら、俺はアンタの現れるところにはいないんだ。
多分、一生あわないアンタが嫌いだ。
作品名:あわないアンタが嫌いだ。 作家名:速水湯子