一週間
「あのー、すみません!」
後ろの方から、男の人の声がうっすら聞こえた。呼ばれたのが自分かどうか分からず、ちらっと振り向いてみる。すると、あのおじさんが僕に向かって手を振っていた。僕とおじさんとの距離は、結構ある。まさか、引き返せとでも言うのだろうか。それだけは、勘弁してほしい。
「こっちで良かったですかね?家谷津(かやつ)はー?」
家谷津というのは、地区の名前だ。昔は、家谷津村だったらしいが、近くの市と合併し、村はなくなってしまった。家谷津という地名だけが残っている。
「あってますよ!ここを真っ直ぐ行けば家谷津です」
僕は、おじさんの問いに答えた。聞こえたかはわからない。家谷津には、祖母の家がある。僕も家谷津へ行かなければならない。
「待ってください!今そちらへ行きます!」
おじさんは、手を大きく振りながらそう言った。どうやらさっきの返答は聞こえなかったらしい。なぜ今になって、僕に道を聞くのだろう。と、思うけどそうなる気持ちも分からないでもない。僕も最初にここへ来た時は、不安だった。延々と続く田んぼ、畦道。車がやっと通れるような、そんな道を30分も歩かなければならないのだ。しかし、僕が始めて来たときは、両親が一緒だったので、大丈夫だったのだが。
息を切らしながら、おじさんは小走りで僕のところまでたどり着いた。
「すみません、最初のうちに聞いとけばよかったんですが」
「いえ、僕も家谷津へ行くんで」
「そうなんですか」