あいねの日記1.5日目
そう担任に告げ受験に取り組もうとした矢先に、目当ての学校の推薦枠にすんなりと収まってしまったのだ。そのおかげで受験の苦労らしい苦労もしなかった。当時の母の口癖はいまでも耳に残っている、『藍は母さんの手助けできる事くらいじゃ困らないんだねぇ』と……。
無事中学を卒業し春を迎えた。
入学式当日。
共学から女子高である。なんとも不思議な空間だと感じる。見渡す限り視界に男性などいない。
日頃から色恋沙汰とは無縁だが、これでますます縁遠い世界になってしまったのだろう。その時、私にとって一際目立つ存在は二つあった。
キャスだけではなかったのだ、それは誰かと言うと高田美弥子その人である。私はその日にキャスとは違った意味で有名人になった。できれば話したくもないのだが、締めくくるのに相応しいエピソードだろう。
私に気付いた美弥子はそのまま私の胸に飛び込んできた。
そして一言……。
「ずっと言えなかったけど。あの時の事は冗談だから……」
そのまま抱きつくだけでは飽き足らずに、泣きじゃくる美弥子。私でもなんの事だか分からないのだ。周りにいた者が理解できるわけなどない。
いったい私がなにをしたと言うのだろう? こう言うのも女泣かせと言うのだろうか……? そう言う私自身も突然の事にうろたえ、ただただ宥めすかせる事に精一杯だった。おろおろする私の心配などお構い無しに。
ひとしきり泣きつくした美弥子の一言がこれまた痛快だった。
「これからは両想いの親友だね……」
そんな私の腕の中で嬉し泣きをする美弥子の表情よりも、周囲にいた人々の表情はいまでも忘れられない。あの見てはいけない物を見てしまった唖然とした表情を……。
せっかく綺麗にまとまったところ非常に申し訳ないのだが、私からこれだけは言っておきたい事がある。美弥子が向こうでなにを学んできたのか知らないが、向こうではそういう人も多いんだよなんて雑学はいらない。こっちの倫理観くらいは考えて行動してほしい。
はっきりと言おう。美弥子は私を恋人だと思っている。少なくとも親友云々の線は越えていると私は思う。これから私はこの問題にとても悩まされる事になる。
一つ救いがあるとするならここが女子高と言う事だろう。容認されるだけでなく公認カップルになってしまうくらいなのだから……。
了
作品名:あいねの日記1.5日目 作家名:Azurite