一万光年のボイジャー
シューは身震いした。今、視界の中を横切っていくそれは、噂に名高い『幽霊戦艦』そのものだ。自分が今、統一性を持つ証言者の一人に加えられてしまったのだ。
「これを見つけたのは、いつ」
視界の先で太いオレンジが集束していく。遠ざかっている。
「あの日、シューと、『幽霊戦艦』の話をしたすぐそのあとよ」
なんてことだ、とシューは思った。
結論は出ない、話は進展しない。そう思っていたのは自分だけだった。
「確実にそれを目視しないと信じてくれないかもしれない、と思った。だから、通過の規則性をずっと探していたのよ」
か細くなったオレンジがふいと潰え、跡地で何事も無かったかのように星雲が渦巻いている。
「これを見つけたとき、面白い、と思った?」
稲田の中で、彼女はおそらく自由研究に使う虫か何かを採集していて、泥だらけの手を几帳面にハンカチで拭いながら笑って言ったのだ。
噂じゃなくて、本当に何かが起こっているなら面白い、と。
そして彼女は、それが噂ではなく真実である証拠を捉え、シューの目の前に提示した。あの時の台詞に従うならば、エーミィは望むままの結果を出せたことになる。真実に限りなく近い噂を、真実だと証明するに至った、しかも数日で。
しかしその偉業を成し遂げた彼女は、ふるふるとかぶりを振る。
「いいえ」
噂となって広まるまでハックルベリーが誰にも言わず黙っていた理由が、シューにもやっと理解できた。
「オレンジ色が、こんなに怖いと思ったのは、初めてよ」
それなのに毎日それを探し、規則性を見出すまでやってのけたエーミィを、シューは心底凄いと思った。きっと万人の敬意に値する。
父親のあとを継いで素晴らしい天文学者になってくれるといい。
「父さんに、相談しようと思う」
だからシューは、できる限りのことをやって、この問題に終止符を打とうとたった今決意を固めた。
「『エンジェリック・アイズ』になら、きっと何か、映ってるよ」
大艦隊『フロンティア』の推進方向に、高性能レーダーを搭載した戦艦『エンジェリック・アイズ』が常駐している。
それは、シューの父親がメカニックとして働いている船でもあった。
作品名:一万光年のボイジャー 作家名:くらたななうみ