一万光年のボイジャー
最終章 デブリ
シューはペンを置いた。重力に縛られることのない空間の中であるから、小さな鉛筆は目の前でふわふわと回る。
ああ、と思い、シューは回っているペンをもう一度握った。そして、ノートの最初のページにこう、付け加える。
西暦2011年
ボイジャー一号、小惑星の軌道上でロスト。
衝突、大破したと推測される。
西暦2035年
ボイジャー二号、地球との通信が断絶。デブリとみなされ、地球ではボイジャー計画が引き上げられる。
しかしおそらく、地球との交信も叶わなくなった残量僅かな燃料の中、彼は限界まで星間飛行を続け、写真を撮り続けたに違いない。もちろんそれは誰にも届くことはない。
しかし先に死んでしまった一号の為に、彼は映像とデータを動かなくなるまで取り続けたのだ。
彼は、先に逝った一号の墓標として、今も太陽系のどこかを漂っているに違いなかった。
作品名:一万光年のボイジャー 作家名:くらたななうみ