一万光年のボイジャー
プロローグ
結論から言及するならば――全ては、はなから失敗に終わっていた。
西暦2011年
ボイジャー一号、小惑星の軌道上でロスト。
衝突、大破したと推測される。
西暦2035年
ボイジャー二号、地球との通信が断絶。デブリとみなされ、地球ではボイジャー計画が引き上げられる。
しかし一号は木星と土星及びその衛星を観測し、二号は加えて天王星と海王星、及び各々に環が存在することを明らかとすることができた。
つまり実質上、ボイジャー計画は成功したと言っていいだろう。
では、何が失敗だったのか。
何処からが失敗なのか。
無人探査機ボイジャー一号・二号の打ち上げから、約一千年余り。
西暦2999年
ある計画が持ち上がった。
その計画は『フロンティア計画』と名づけられ、宇宙の全貌を解明するという人類の夢を背負い込み、進行し始めたのだ。
この計画はのちに失敗する。その兆候は、はなからあった。
しかし誰もそのことに気付かぬまま、数百年を費やして準備は順調に進行、『フロンティア計画』は実行に移される。
宇宙工学者たちの努力の結晶である光子エンジン搭載の宇宙戦艦は、長い年月をかけて更に磨かれ、出発の瞬間を待っていた。
発射のカウントダウンから数秒、米国を中心とした半球上にいる皆が、光子エンジンと夢と希望という絡み合う3つのエレメンツが描く、幾重にも連なり弧のように伸びていく光の軌跡を目にしたのだ。
このような経緯で、
光子エンジン搭載宇宙戦艦、約百数機から成る大艦隊『フロンティア』は、宇宙へと旅立った。
やがて――一万年の月日が流れた。
悲劇の兆候は、ずっとあった。
しかし結局、その道筋が正されることはなく、運命の瞬間はやってくる。
西暦12999年
その日、レーダーはいかなる物体の影すら捉えてはいなかったという。
「妙です」
クルーの一人が言った。
今の状況が妙である、ということには誰しも気付いてはいた。ただ、口にしては怖ろしいことが起きそうな予感がしていたので、皆黙っていたのだった。
独り言のようなセリフに誰も返事をせず、訪れた一瞬の沈黙の後、不意にアラートランプがけたたましいブザーに伴い点滅し始める。
無機的で耳障りな音は、大艦隊『フロンティア』中にエマージェンシーを叫んでいた。
それでも手元のレーダーには一切、味方艦以外の反応は示されていない。
数分後、
『フロンティア』の最外を周遊していた巡回艦、『フライヤー』の反応がロスト、レーダー上から姿を消した。
どうしてそんなことになってしまったのか。
どうして『その悲劇』が起こったのか。
時は――ほんの少し、数週間だけさかのぼる。
作品名:一万光年のボイジャー 作家名:くらたななうみ