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ブルーフィルム★バッド・デイズ

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俺、片野ユウキには親友がいる。
名前は五嶋カズアキ。
小学三年生からの付き合いで、今年俺達は高校三年生になったから、ええと、9年の付き合いになるのか。


カズアキの奴は、俺と違ってスポーツ万能成績優秀ツラも一級品と、絵に描いたような万能人だ。凡夫の俺にしちゃあ羨ましくてたまんないんだけど、こいつ、性格も悪くないんだなあ。恨ませろよ、くそ。


…と、言うわけで、中高と経ながらもなんだかんだ離れず続いてきた俺達の仲だけど、今年でさすがに千切れそうなのだった。

いや、仲違いとかじゃなくて、さすがに大学まで一緒ってこともねーわってね。
俺とこいつじゃ志望が違うし、残念だけどサヨナラかってね。勿論連絡は取り合うつもりだけどさ。

と言うわけで。


「つーわけで、来年からは別々だな、カズアキ」
「…………」


今に至るわけだ。
カズアキは俺の言葉に、呆気に取られたようだった。


「……一緒にK大受けようってんじゃなかったっけ」
「や、俺じゃやっぱ無理だわって」
「じゃあ俺もO大に……」
「何言ってんの。受けなさい」
「…………」


…ま、そーなるわね。

俺達は高二ぐらいから、K大受けようぜってかんじになってたんだけど、三年になって面談と言う箱を開けてみればまあ、無理だ。
カズアキは余裕だろうけどさ、俺にゃ無理だよ。一ランク落としたO大でギリギリか。


「何時から考えてたの」
「面談の時から」
「…先月じゃん。何で言ってくんなかったの」
「言ってどうすんだよ何か変わんのかよ」

これは酷い。俺最低。カズアキに八つ当たんのは筋違いだってのに。

「……悪い」


俺はカズアキの目を見ずに頭を下げた。

…本当は、すぐ相談すべきだって判ってた。でもさあ、お前がそんなこと思うわけないと判っててもさあ、俺お前にバカだって思われたくなかったんだもん。
お前の悩みのタネ増やしたくなかった……のは、言い訳か。


「だから」


カズアキは呟くように言った。


「サヨナラなの?」
「……そう。や、大学違っても会えるけどさ、大学は一緒とは行かないっていう」
「…俺から、離れたくなったの?」

痛いとこ、突かれた。

「ちげーよばか。学力足んねーんだよ言わせんな恥ずかしい」


カズアキは何も言わなかった。
カズアキが嫌いだとかは、全然ない。コンプレックスは刺激されるけど、上回るくらい良い奴だし。
…でもさあ。来年で10年の付き合いとかなるとさあ。何か近すぎて息苦しいような気がして。倦怠期の夫婦みたいな?いや俺達はそんな関係じゃないけどね。


「ユウキ」
「あい」
「どうしても?」
「うん」
「俺が駄目って言っても?」
「…ああ、うん」

いやお前の駄目にどんな効果があんだよ。

「そっか」とカズアキが力なく笑った。流石の俺も、ここになると罪悪感を覚えてくる。でもなんか罪悪感を覚えさせられるのもなんかむかついて、俺は何も言えなかった。

カズアキが席を立って、俺は目を伏せた。足音は俺の方へ近付いてくる。
ちなみにここは教室、放課後。別れ話には最高のシチュエーション……いや、男同士なんだからそれはねーよ。
俺は一発くらいは殴られてもしょうがないと思っていた。カズアキは、隠し事されるのが一番嫌いだからさ。


「………いてえ」
「ごめん」
「謝るくらいなら、殴んなよな」

思いっきり殴られた。そんなに腹が立ちましたか。

「口の中切れたし」
「……ごめん」
「だーかーらー謝んなよー」

俺が悪いんだからさあ、被害者ヅラしてろよ。俺は溜め息を吐いた。カズアキのこう言うとこ、…キライじゃないけど。


「ユウキ、俺のこと嫌いになった?」
「なにゆってんのお前。こんくらいで切れる仲なの俺ら?や、こんくらいなんて言う資格俺にはねーけどさ」
「俺のこと嫌いになったから同じ大学行けないんだろホントは」
「……だーかーらーー」

それも強ち否定できないけどさあ。嫌いまでいかなくて、

「学力がさあ」
「嘘」
「お前なあ…いい加減にしろよ」

俺は頭を抱えた。何だこれ。もしかして修羅場?
彼女いない歴イコール年齢の俺のはじめての修羅場?


「ちょっとカズアキ。意味わかんねーよ落ち着け」


俺は殴られた頬を押さえたままカズアキを見上げた。そう言えば、話し合い始めてからカズアキの目を見たのは初めてかもしれなかった。



「………カズアキ?」

カズアキは、見たことのない目の色をしていた。喜怒哀楽とかそんなんじゃなくて、それは、一体なんなんだ?
カズアキの腕が再び前に出た。もう一発殴られるのかと思ったら、ちがう。頬を押さえる手を取って、カズアキは笑った。

「    」
「…………ぁ?」

あまりにもこの状況に異質すぎて、脳が言葉を受け付けない。

「カズアキ?」

俺は無意識に一歩後ずさったが、カズアキに腕を捕まれているし後ろは壁だった。…なんだこの状況?

「  だよユウキ。だから、駄目」
「なにが」
「……逃がさない」

捕まれた腕が嫌な音を立てて、それから、…それから、これはなんだ?どういう展開?カズアキの唾液の味。一生知るはずもなかったそれ。
カズアキは深いキスの狭間に、うわごとのように囁く。
「好き」



「……な、」
「抵抗したら、怪我するよ」
「なにゆってんのお前…てかなに考えてんの……」

カズアキは薄く笑うと、自らの懐に手を入れた。多分学ランの内ポケットにだろうと呆然と見ていると、肉厚のナイフ。おいおい。それが俺の首のすぐ横。壁に突き立てられた。


「これ結構鋭いよ。痛いの嫌?」
「嫌に決まってんだろ!なに考えてんのお前…」
「ユウキのこと考えてる。ずうっと、昔から。………昔話しようか」
「いい加減………」
「種明かししようよ。俺もうこのキャラやなんだもん」

カズアキの振りかざすナイフの輝き。それを見ると何も言えなかった。カズアキは妙に嬉しそうだった。


「俺小三で転校してきたじゃん」
「うん」
「そんで、初めてできた友達がユウキだった」
「そーなの?」
「うん」

…なんでこの状況で、優雅に昔話なんかしてんだか。
しかし一瞬のなごやかムードは、当のカズアキによって掻き消された。


「だから俺さ、ユウキのためならなんでもやろうと思った」
「なんじゃそりゃ」
「転校前いじめられっ子で友達いなくて」
「ありがちだなー」
「ウサギ殺したの俺だよ」
「………え」

このナイフで。カズアキは笑った。

「小学生の時ユウキ生き物係だったじゃん」
「あー」
「嫌がってたから」
「や、まあ、そうだったような気がするけど、はあ?」
「夜中に小学校忍び込んで、皆殺し」
「…………」

確かに、俺は小学生の時生き物係りだった。生き物係りには週交代でウサギの世話をする役目があって、俺はそれが嫌だった。

「だからって殺します?」
「いやあ。だって逃がしたら新しいの買うでしょ多分?じゃあ殺した方がいいじゃない?」
「あー」

最もだ。…じゃ、なくて!