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しっぽ物語 3.ラプンツェル

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「分かった分かった」
しがみつくようにして引きむしったバスタブのカーテンは、今にも外れそうになっている。悪趣味なハイビスカス模様に頭が痛くなる。カーテンだけではない。このオフィス全般の趣味が酷かった。そう言えば、Gはまた肩を竦め、嫌味ったらしく言葉を付け足すのだろう。だから、あのインテリアコーディネーターはやめておけと言ったんだ。だがLは確かに専門家へ注文をつけたのだ。ヴィト・コルレオーネが座ってそうな、シックで重厚な内装がいい。それがなぜ真っ赤なアームチェアーと市松模様の床、ついでに黒豹の絨毯になったのかは永遠の謎だったが、眼にするたびあのぴったりしたズボンを穿いた男を殴りつけたくなるので、最近Lがここを使うのは、妻と喧嘩した時か拾ってきた娼婦を連れ込むときか、とにかく冷静に物事を考える必要が無い時に限られていた。
出て行こうと背を向けたGを引きとめ、トイレタンクに山積みの書類を顎でしゃくる。
「面倒だ、読んでくれ」
「自分で読め。今日はこの後、何もないんだろう」
「女のところに行く」
「酒臭いままで?」
 汗を吸うには適していないシルクのローブを投げ捨て、様子を窺う。Gは呆れたような顔で肩を竦め、渋々ファイルに視線を落とした。こちらには見向きもしない。安心して、カーテンを閉める。
「だから汗を流すんじゃないか」


 なかなか温度を上げようとしないシャワーも、今だけはちょうど良い。火照った顔を水の粒に晒していれば、胸のむかつきは少し収まった。
「まずカジノの件だが」
「最近あのいかさま師はどうしてる」
 水音に負けない大声を張り上げようとしたが、口の中が粘ついて不明瞭にしかならなかった。掌に掬った水を口に含む。恐ろしく鉄臭く、慌てて吐き出した。
「まだシック・ボーのテーブルでうろうろしてるのか」
「シック・ボーじゃない、クラップスだ」
「どうでもいいさ」
「1度か2度、女と組んでパストポスティングの真似事みたいなことをしようとしたが、どれも結局未遂だ。まあ、誰とも組んでいないようだから、当然だな。最近は一人で出入りはしているが、こちら側に害があるようなことはしていない」
「こちら側?」
「まあ、つまり」
 一つ咳払いしてから、Gは言った。
「スロットで儲けたご婦人から、言葉巧みに金を巻き取ってる」
「十分な実害じゃないか、それ」
 蒸れた頭を引っ掻き、呟く。