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小さな鍵と記憶の言葉

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 最後の最後に残ってしまった苛々を抱えながらアリスの部屋に戻ると、入り口の真ん前でうろうろしている後姿を見つけた。
 お茶会でも見なかった人だ。勿論全員の顔を覚えられたわけではないけれど、少なくとも彼の髪の色と服装は役職就きのそれとは違っているように見えた。ああ、そうだ、さっきまでお茶会室に沢山居た男の人たちと同じ制服だ。
それにしても、どう見ても私の部屋に用事があるようだけれど。

「あの……?」
「うわっ!!!」

 恐る恐る声をかけると、相手はびくりと背筋を張った。こちらはそれに益々驚いてしまう。釣られて大声を上げてしまって、それにまた彼がびくびくと飛び退ける。
「あ、あの、ごめんなさい」
「いえ! こちらこそ、申し訳ありません! 自分は、こちらのティータイムの片づけを仰せつかって――って、あ、アリス!!」
 顔を上げた少年は私の顔を見て更に大声をあげる。余程驚いたらしく、勢い余って扉に背中をしたたかに打ちつけた。

「だ、大丈夫……?」
「はい、大丈夫、大丈夫です……」
 そう答えながら、必死に腰の辺りをさすっている。
 なんだか、色々な意味で大丈夫そうじゃないけれど。

 改めて彼の様子を見る。身長は私と同じくらいだった。金よりも赤よりも、夕焼けに近いオレンジ色の髪。議長よりは質素で執事よりは華やかな制服。
 メイド達と揃いの模様仕立てのスーツということは、彼もまた下働きなのかもしれない。なんというんだっけ……そう、フットマンだ。
「申し訳ありません、ええと、ティータイムの支度を仰せつかってきて参りましたっ」
 オレンジ色の髪の彼は用意してきたらしい台詞を少し間違いながら口早に告げる。どうやら相当動揺と緊張をしているらしく、見ているだけで可哀想になってきた。
「あの、それで……そのっ」
「大丈夫だから、少し落ち着いて? はい、深呼吸」
「は、はいっ」

 思いっきり息を吸って吐いて、幾らか落ち着きを取り戻し、やっと肩の力を抜いて私を見る。
 なんだろう、この放っておけない感じ。思わず息をつめて、私も彼を見詰め返す。

「はぁ、失礼しました。お騒がせしてしまって」
「いいの、気にしないで。とりあえず部屋の中にどうぞ」