小さな鍵と記憶の言葉
真鍮のドアが開く。
食卓のように広がったテーブルには数十人の役職就きが席を置いていた。その中には既に『彼女』と面識のあるものもいる。
整えられた紅茶の用意。たったひとつ開いている席は、部屋の一番奥。主催者が座るべき場所だった。
主催者の隣席、腰を下ろしていた青年が立ち上がって声を張り上げる。彼の役職は《帽子屋》。この部屋を取り仕切る人間だった。
「それでは、只今より《お茶会》を開始致します」
私は白兎に付き添われて、最後の席を埋めるため、彼らの視線の中を横切った。不安気な視線。好奇心に溢れた視線。こんな優柔不断そうな子がと思われているかもしれない、そんな視線。
出会うことが正しいのか、分かれることが正しいのか。
何が正しいのか、分かってもいないけれど。
芋虫の問いかけに対する答えでさえ、未だ持っていないけれど。
それでも、一歩を踏み出すことは許されるはず。
不安定だとしても。無知のままでも。
作品名:小さな鍵と記憶の言葉 作家名:篠宮あさと