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また長い時が経った。

「ク、うぅ……」
「ながれ」は苦しかった。体中すっかり錆び付き、真っ黒な車体は色あせていた。連結器の上部分には歪な赤茶の穴が無数に開いており、煙突は折れていた。機関室はクモの巣だらけで、右側のサイドタンクには白い「H・O」という文字がはみ出るくらい大きく書かれていた。どこかの阿呆が「ながれ」に落書きをして行ったらしい。

「よしの」「あかり」「ゆり」客車たちの窓ガラスは全て割られていた。どこかの馬鹿が戯れに客車に投石して行ったのだ。あちこちに傷をつけられ、木製の車体は腐りかけている部分もあった。

彼らは一朝一夕でこの惨い有様に変わったわけではない。ここ数年ずっとこのままだった。
いつからか横山さんは来なくなった。すっかり白髪になっていたが、休日にはかかさず来ていたのに。

「ながれ」は横山さんが亡くなったことを知らなかった。横山さんは山へ山菜採りに入って、足を滑らせ崖から転落して死んでしまった。

「ながれ」達を掃除してくれる人は居なかった。興味を持ってじろじろ見回していく人はいくらかあったが、どうやら土地の人でないらしく皆すぐに行ってしまった。

「痛いよ……。ガラスが割れて、スースーするよ……」
「ゆり」は最初そう言っていたが、もう何も言わなくなっていた。

もう「ながれ」達はそこに居たくなかった。誰かに綺麗に掃除してもらいたかったけど、そんな人は現れない。むしろ、あの時スクラップにされた方がましだったと考えるようになっていた。

ただひたすら惨めだった。

ある日、作業服を着た男達がやって来た。

「しかし酷い有様だな。みっともない」
「財政難でこの機関車も維持できなくなった。スクラップにするしか無いんだろうな」
作業員達が言った。

いつしか「ながれ」達に価値を感じる人々はいなくなってしまった。
「ながれ」は本当にスクラップにされてしまうことになったのだ。

作業員達の言葉を聞いて「ながれ」は思った。

「僕達ってなんだったんだろう。どうしてこんな場所に置かれてるの?なんのためにここに置かれたの?」