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再会 ~サトシとユカリ~

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「お父さんに言わないでね。お父さん、気が小さいから…」と頼んだ。
「分かった」とゆかりは応えた。
病室に戻った。
「ゆかり、幾つになった?」
「二十九よ」
「二十九か。かあさんはその頃、もうお前を生んで育てていた。田舎に戻って所帯を持つ気はないか。お前の子供の顔をみたい」
「その話は母さんからも聞いたわ」
「お前をもろってやるという人がいるんだ…会ってみないか? 父さんも先がそんなに長くもないからな……」
「まず病気を先に治しましょう。それから考えても遅くないでしょ?」
手術は直ぐに行われた。手術はうまくいった。経過も良かった。しかし、医師は転移している可能性を否定しなかった。
「この町に帰ってくるわ」とゆかりは母に言った。
「帰ってきて、私も看病する。後悔したくないから」
父の病状を聞いたとき、ゆかりは聡と別れる決心をした。もう聡と一緒に夢を追えないと。
ゆかりは上司に事情を告げ、直ぐに病院を辞めた。
聡にどういうのか思案したが、単刀直入に言うことにした。
「田舎に帰ろうと思うの」
「どうして? 俺を嫌いになったのか?」
「今でも好きよ、あなたはいつか東京に戻りミュージシャンになる人。今の私はあなたと一緒に夢を追うには年をとりすぎた。もうじき三十よ。それに私は田舎の人間。この町でさえ生きていけない人間。田舎に戻って暮らすのがちょうどいいの。そんな気がするの」
しばらく沈黙が続いた。
聡はまるで自分に言い聞かせるように、「やっぱり、俺を嫌いになったんだ」
すぐさまゆかりは「違う」と言った。そして頬から一筋の涙が流れた。
聡は「もう、いい。何も言うな!」と怒鳴った。
「ゆかりのいない、この町には俺も未練はない。俺もこの町を離れるよ。俺は明日の朝、この部屋を出る。荷物は楽器だけだ。後は捨ててくれ」
それから二人は会話をしなかった。
ゆかりは、彼があっけなく出ていくなんて信じられなかったのである。別れるにしても、五年間、一緒に暮らしてきた。きっと何かあるだろうと信じていた。聡は聡で依怙地になっていた。悪いのは自分ではない。ゆかりの方だ。ゆかりが謝ったら、考え直しても良かったが、自分から何かいう気持ちにはなれなかった。
二人は背中を向けたままベッドに横たわり、そして静かに眠った。
次の日の朝、ゆかりが起きたとき、聡はまだ寝ていた。そっと部屋を出た。
ゆかりが病院から戻ってくると、聡の姿はなかった。
テーブルの上に便箋が一枚あった。「ちょうど潮時かもしれない。五年間ありがとう。遠くの空から君の幸せを祈るよ」と書かれていた。
その手紙を読み、ゆかりは「ごめんね」と泣いた。

演奏会場の近くの公園近くのベンチ。気が付くと、目の前に若い男が立っていた。彼はばつが悪そうに、
「すいません。ゆかりさんですよね」と近寄ってきた。彼女はうなずいた。
「これ頼まれたんです」と封筒を差し出した。
「誰から?」
「それはきっとこれを読めば分かると思います」
「じゃ、失礼します」と若い男はくるりと背を向け、小走りに去った。