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「Boys in Love」

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   Boys in Love

 それは信じられない光景を目撃したことから始まった。
 先輩から、今日入学してくるはずの一中――西讃第一中学の日栄一賀(ひさかえいちが)の様子を見てくるように言われて、休みにも関わらず登校していた俺、成瀬薫(なるせかおる)は、そこで我が目を疑うような光景に出くわした。
 日栄一賀という新入生は、中学に入った頃からすでに高校生を相手にもめ事を起こしていたが、争った相手を――たとえそれが女でも――必ず病院送りにするというので中三になる頃には「最強最悪」と呼ばれて、奴を取り込むつもりで手を出さなかった龍騎兵(うち)以外のチームからは目の敵(かたき)にされていたものだった。それが去年の夏頃、一度死にかけて、「身体が悪くて打たれ弱い」という噂が広まると、後輩の銀狐とかいう双子に代わりをさせて、すっかり大人しくなってしまったということになっていた。
 だが、俺が見た限りじゃあ、奴は別に大人しくなったわけでも何でもなくて、ただ、お節介な後輩が奴に売られた喧嘩を片っ端から横取りして片付けるので、自分の手を汚す必要がなくなったというだけのことだった。
 双子のいないところでは相変わらずで、噂を本気にして奴に喧嘩を売る頭の悪い連中は、触れるかどうかで即病院送りにされていた。
 俺も何度か奴の喧嘩を見てきたが、相手を一発で戦意喪失に陥れる手際は、それはそれは鮮やかなものだった。奴としては、僅かな時間と手間で最大の効果が得られる最良のやり方なのだろう。
 やりすぎじゃないか、っていう俺(ひと)の忠告も聞きやしなかった。
 そんな奴がだ。いつも冷めた目をして枯れ枝でも折るように人間(ひと)の腕を折るようなそんな奴が、熱に浮かされたみたいにして女の後をふらふらとついていったのだ。
 「ありゃ何の冗談だ」
 俺は彩子(さいこ)を振り返った。
 俺に付き合って登校していた幼なじみの内藤彩子は腕組みをして口元を緩めていた。
 「おい、あれは日栄一賀に間違いないよな。女の方(ほう)は誰だ?」
 彩子はくすりと笑った。
 何だよ。
 「薫ちゃんも知ってるはずよ」
 俺の知ってる――子?
 「誰…だ?」
 「ケーコちゃんのお姉さんよ」
 ケーコ、神田恵子(かんだけいこ)か?じゃあ、あれは――。
 「環(たまき)……女史か」
作品名:「Boys in Love」 作家名:井沢さと