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りんみや あんにゅい2

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 最初に、瑠璃が提案したら、そう断った。ある意味、最強だ。その日暮しの貧乏人のくせして、資産家の瑠璃からの求婚なんて蹴飛ばしてしまえるくらいに、マイペースな人間だ。

・・・・だから、俺は負けを認めた・・・俺が、真剣に負けたと思ったのは、りんさんと唯柾様だけだ・・・

 どうしたって、浦上には、りんに勝てる気がしない。年棒とか社会的地位とか、そういうものではなくて、精神的な部分で、浦上は、りんに勝てないのだ。

 ことんと音がして、湯気の上がったカップが置かれた。
「そんなとこで寝てると、俺の風邪が移るぞ、ウラさん。ちゃんと寝て来いよ。」
 どうやら、目を閉じていたらしい。小休止なのか、りんも対面のソファに腰を下ろした。
「過労で風邪で肺炎気味のりんさんに、哀れまれるなんて、俺は悲しいね。」
「勝手に重病人にしてくれるなよ。もう、治ってる。」
 えふえふと、フィラリアを患った犬のような咳をして、りんは笑っている。やっぱり、気付いていないらしい。どう見ても、かなり熱がありそうな顔だ。
「あのさ、りんさん。」
「・・あ?・・・」
「あんた、生きてる理由に、瑠璃さんは入らないのか? 」
 一応、近々に籍を入れる相手で、とりあえず相想相愛な女だ。それと生きることが決まったのなら、瑠璃と共にあることも、生きる理由になるはずだ。
「入らない、というか、除外だな。瑠璃さんは、自分で、どうにでもするだろう? 俺が、どうこう言うことはない。・・・・何、古い話を蒸し返してるんだよ。寝て来いよ、ウラさん。」
「俺には、よくわからないよ。」
「別に、わからなくていいさ。俺は変わり者らしいからな。瑠璃さんのじいさまだって、そう言ってただろ? 」
「その仕事が終わったら、慰労会してくれるんだよな? 」
「ああ、盛大にやってやる。おごってやる。」
「じゃあ、ちゃきちゃき働いて終わらせてくれ。」
「だから、まだかかるって。できるのは、明日の午後一ぐらいになる。それまで監視するつもりかい? 暇なら、もうちょっと、娑婆で遊んで来いよ。」
「もしかして邪魔? 」
「もしかしなくても邪魔。背後から、殺意籠もってんのか? ぐらいの意識を集中されたら、俺が弱る。」
 そこまで言われてしまうと、無理に滞在するのも悪い。では、朝には顔を出す、と、腰を上げた。





 薬が効かないな、と、りんは、頭を左右に振る。発熱が、きつい。寒いを通り越して熱いから、相当に高いんだろうと、冷静に判断している。これさえ、終わったら眠れるのだと、自分に言い聞かせて、どうにか、チェックを終えた。
 それらを、いくつかのホルダーに分けて、友人のメルアドへ送信する。向こうで、これらを組み直せば、ちゃんと、ひとつのものになるように、手配書もつける。五十近いメールを、全て送信すると、がくりと膝が折れた。
 
・・・・ああ、もう、さすがに限界だ。もう、いいや、寝れば治るだろう。・・・

 倒れたまま、意識を落とす。やっと眠れるのだと思うと、息苦しいのも気にならなかった。



 痛みで目が覚めた。ぼおっと視界が霞んでいるが、そこには、白衣の男が居る。
「林太郎さん、林太郎さん。」
「・・・あ?・・・」
「あなた、肺炎で死にかけてたんです。」
「小椋、言うだけ無駄だから、処置だけしてくれ。たぶん、このとうちゃん、まだ意識がしっかりしてない。」

・・・うわあーやなやつが二人も揃ってるよ。誰が肺炎だ? 俺は、肺炎気味だぞ。また、ふたりして、重病人に仕立て上げてるんだな・・・・

 うまく声が出ないのは、目覚めで喉が渇いているからだろう、と、りんは、とりあえず目を閉じる。開けていると、文句とか小言が、集中砲火されることは、身をもって知っているからだ。
 次に目が覚めたら、ちょっと意識がはっきりしていた。どう見ても、病室である。また、拉致られたか、と、起き上がる。
「こらこら、起きるな。」
「まだ、居たのか? っていうかさ、いちいち、病院に拉致するのは、如何なもんかと思うぜ、ウラさん。俺、まだ、返信を受け取ってないのにさ。」
 友人からの受領書を受け取り、そこに付随しているだろう質問に答える仕事が残っている。それなのに、病院まで搬送されているのは問題だ。
「その件については、和田さんに連絡した。後日、受領書は郵送してもらうことにした。後、あんたのところへ来ていた依頼は、全部、和田さんのほうへ押し付けた。」
「はあ? 」
「あのなぁーりんさん。あんた、三日ほど意識不明で高熱だったんだ。肺炎が、ものすごく悪化していたんだぞ。」
「またまた、あんたと小椋先生の小言は、もういいよ。不摂生しているからって、そんな大病にしなくてもいいだろ? 睡眠不足と、薬の飲みすぎで寝てたんだろうからさ。」
 いつものように、りんは、自分の病状を自覚しない。一種の特技かもしれないと、浦上も小椋も思う。自分の身体が、どれほど悪くても、この男は自覚しないのだ。


 その日の朝から、浦上が顔を出したら、豪快に倒れていた。息はしているから死んでいないことは、判るが、もう、これは自宅で、どうとかできることはないだろうと、病院へ搬送した。小椋のほうも、予想していたのか、苦笑いを浮かべて待っていた。
「ついでだから、他の検査とかもやらせてもらえるだろうか? 」
「一月ぐらい病院に監禁してくれ。そうでないと、俺は、安心して休むことができないぞ。」
「あはははは・・・そうだね。それじゃあ、うちで預かろう。でも、林太郎さんのことだから、十日もしたら逃げるんだろうけどね。」
 状態が上向いた瞬間に、りんは逃げる。こちらに知り合いが居るから、そこへ逃げてしまうのだ。
「四十だということを、自覚させておいてくれ。」
 浦上は、りんより、少し上だし、小椋は、そのまた少し上なので、お互い、体力的なことは自覚できている。若い頃のような無理はきかないと、りんにも自覚していただきたいと、浦上は思う。
「それは自覚してると思うんだけどね。・・・まあ、いいよ。出来る限りの治療はさせてもらおう。」
 ふたりして、病人を観察して、苦笑する。予想はついている。また、「そんな大袈裟な。」 と、笑うに違いないからだ。


 きっちりと予想通りだった。小椋を呼んで、ふたりして、散々に説明したが、聞き入れられた様子は無い。だが、さすがに、高熱で三日は辛かったのか、起きていられなくなって横にはなった。
「なあ、りんさん。とりあえず、回復するまでは監禁だぞ。」
「はいはい、ウラさんも娑婆で羽伸ばしてきなよ。そうだ、こっちにいる間に、慰労会してやるよ。ああ、小椋先生も一緒に飲みに行きませんか? 」
「えーっと、林太郎さん、当分、飲酒と喫煙は禁止です。」
「はあ? ああ、まあ、病室では、そういうことにしておきます。」
 こんな患者、他には絶対にいない。
「あなたは、肺を弱らせているから、どこでも禁止ですっっ。」
 やっぱり、いつものように、最後に小椋が怒鳴ることになる。定番になっているから、これには、浦上も笑うしかない。



作品名:りんみや あんにゅい2 作家名:篠義