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りんみや あんにゅい2

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「あんた、よくも、人を寝たきり老人にしてくれたな? 」
 三日後に、戻ったら、すでに、りんは仕事場に復帰していた。
「なんだ、鎮静剤の効き目は悪かったのかい? りんさん。」
「・・・・わかるっていうんだよ、それぐらいは。二日も寝とぼけさせてもらったさ。」
「ああ、休養はできたんだ。そりゃよかった。風邪薬は服用してくれたんだろうね? 」
「してないよ。小椋先生のは、催眠効果が強すぎて、仕事にならない。」
 ・・・・ったく、性質が悪い、と、ぼけきつつ、りんのほうは、仕事の遅れを取り戻している。予定していたノルマが二日ほどポシャった。次の予定が迫っているので、挽回しておかなければ徹夜が続くことになる。
「佐伯夫婦にも、しばらく休んでもらうように言ったから。あんたも、食料は自力調達してこいよ、ウラさん。」
「え? でも、佐伯さんたち、いるんだろ? 」
「知らない。俺は、自分のことは自分でするから、いらないと断った。」
 佐伯たちは、別棟の一軒を自宅にしている。二日前に、りんが拉致されたのも、そこだ。そこで、佐伯夫婦に、さんざんに説教されて寝かされていたのだ。
「そんなちゃちな報復攻撃は通用しないぜ、りんさん。俺も自炊はできるんだから。」
「なら、とりあえず、自分で、どうにかしてくれ。とにかく、修羅場ってるから話しかけるな。」
 本気でやばいらしい。しかし、あれ? と、浦上は首を傾げる。確か、十日後の分は、外注しておいたはずだ。
「あんた、十日後のやつならさ。」
「キャンセルした。あんな値段で引き受けたっていうのが、そもそもおかしいんだぞ。あれで、できるやつがいるなら、俺は「師匠」 と、呼んで崇め奉ってやるよ。そんな簡単なプログラムじゃないからな、これは。あんたの仕様書がまずかった。」
「・・あ・・・」
「いいけどさ。やるなら、相談してからにしてくれ。」
 どうやら、浦上の手配はまずかったらしい。それに気付いて、慌てて引き取ったということで、りんは余計に修羅場になっている。
「悪い、読み間違えてたんだな? 」
「まあ、素人で、あそこまで仕様書が書けたら、すごいとは思うよ。そういうことだから、しばらく相手はできないから。」
「わかった。手伝えることがあったら、言ってくれ。俺も執務室にはいる。とりあえず、メシは俺がやろうか? 」
「いや、いいよ。本当に、時間がない。それに、気晴らしにドライブして食ってくる。」
 まあ、そういうことなら、と、浦上が引き下がった。しかし、これがまずかった。



 五日後に、りんの私室のほうを覗いたら、居間のゴミ箱に、空になった風邪クスリと栄養剤が、大量に捨てられていたからだ。毎日、仕事場の様子は伺っていたが、鼻水と咳が収まらないだけだと思っていた。

・・・これ、六十錠だよな? 五日しか経ってないから、一日に十錠以上も摂取したのか? あのバカ・・・・

 空のクスリ瓶を手にして、ぞっとした。いくら効果の薄い市販薬といっても限度がある。そんなことをしたら、胃壁や肝臓が壊れる。慌てて、仕事場に出向いたら、ぜーぜーと苦しげな息で、仕事をしていた。
「あんたなあーーー、こんなことをしたらっっ。」
「あと一日で終わるから、見逃してくれ。・・・大丈夫、いつも、これで乗り切ってたから・・」
「乗り切ってたのは、五年前までだろうがっっ。わかってんのか? あんた、四十なんだぞっっ。こんな無茶は利かないっっ。」
「うんうん、小言は、後で纏めて聞く。・・・しばらくだけ、黙っててくれ。」
 真剣な表情で、ディスプレイに目を走らせているりんに、浦上も黙る。たぶん、最後のマトメに入っているのだろう。一番、神経を使うところだ。期日が大切な仕事で、りんは、ほとんど遅れることなく終わらせているらしい。そうでなければ、信用問題になるし、りんのネームバリューも価値が下がる。こつこつと引き上げてきたりんの実績を、今更、引き下げる真似は、浦上にもできない。えふえふと咳をして、タオルで鼻から下を覆っている姿で、そこまで、よくやるな、と、いつも感心する。
「徹夜するよ。」
「いいさ、俺も付き合う。もう倒れてから説教するから、思う存分、働いてくれ、とうちゃん。」
「ああ、すまないな。これが終わったら、後は、しばらく休めるはずだ。」
 仕事自体が好きなのだ。そうでないと、ここまで打ち込めない。りんにしか構築できない世界があって、それを創り上げていく過程というのは、本当に楽しいと言う。わかるのだが、とりあえず、生命の危機に瀕するまで根性を入れるのは、やめてほしいと、浦上は、こっそりと呟いた。







 無言の空間で、自分も資料を読んでいた。時折、聞こえる咳と激しい息遣いというものに、少し意識が向いている。とはいうものの、集中している人間に、声をかけるのは躊躇われて、こちらも黙って、仕事をしていた。
 五年前なら、有無を言わさず、病院へ叩き込んでいただろう。いや、とりあえず、仕事から遠ざけてはいただろう。実際、そうしたからだ。商売道具と資料を取り上げて、借り上げているホテルの一室に軟禁してやった。
 ふらふらで、以前より痩せてしまったりんは、それでも、「大丈夫だって。」 と、笑っていた。あまりに過酷な労働だったらしく、視力すら失っていたのに、それすら、「そのうち、戻るって。」 と、子供の心配ばかりしていたのだ。一種の病気じゃないだろうか、と、その当時、浦上は考えた。それぐらい自分のことを無視していたからだ。
「・・・俺さ、みやが生きててくれないと困るんだよ。あいつが生きてると、俺も生きている理由ができるからさ。だから、もし、できるなら、俺の生命力を八割方移行させてやりたいくらいだよ。」
 生きている理由なんて、人それぞれだ。浦上は楽しければいい。りんにとって、子供を拾ったことで、生きている理由ができた。だから、いなくなったら、生きている理由が失われる。そういう単純なものだったらしい。そうでなかったら、あんな大病を患った子供を八年も、一人で育てたり、できなかっただろう。自分が存在する理由。りんと同じ特別な能力を内包した子供が、公園で泣いていた。それまで忌まわしいとまで思っていた特別な能力は、その子供を助けてやる能力に変わったからだ。りんの両親にはなかったから、りんは疎外感を、それまで存分に味わった。だからこそ、子供に、それを感じさせなくても育てられることが、理由になった。どんなことをしても、と、りんは無理をした。そして、無事に五年を乗り切って、子供の治療は、一段落ついた。

・・・本当に、このとうちゃんは、バカだ・・・

 浦上が持っていない特別な能力を使えば、そんな苦労はしなくてよかったはずだ。だのに、真っ当に、ちゃんと働いて、子供を育てた。それが当たり前だ、と、りんは思っている。今だって、治療費の半分を稼ぐつもりの仕事のはずだ。それは、瑠璃が用意すると、宣言したのに、納得はしていない。瑠璃との結婚だって、さっさとしてしまえばいいのに、子供の戸籍を取得させて、ちゃんと形にできてからだ、と言った。普通なら、資産家の女の籍へ、さっさと入って、その財産で楽をすることを考える。
「俺は乞食でも奴隷でもない。」
作品名:りんみや あんにゅい2 作家名:篠義