ちょっと怖い小咄【三幕】
小咄其の参拾伍 『毛はえ薬』
とある研究室で。
「毛呂山(もろやま)博士、モルモットの実験が成功しました。 無毛症のラットが
…ふさふさです!」
冬毛にしてもボリュームたっぷりな体毛にくるまれたネズミを前に青年研究員が
声をあげた。
「うむ、でかした天光寺君。ついに究極の毛生え薬の完成だ。
先天性、後天性、増毛にも塗るだけでオッケーじゃ」
「この日が来るのを…どんなに待ち望んだことか」
若くして薄毛に悩む天光寺は感涙にむせている。
「いやいや、十個体ではまだ十分とは言えん。もっとハゲしく実験するのだ!」
光沢ある頭部をなでつつ博士は叫ぶ。
「いえ、博士…それより、ここは人体実験です。僕が身をもって効果を証明してみ
せます!」
「おおそうか、さすが天光寺君、私の誇らしい助手じゃー!」
「博士ー!」
二人は抱き合い頭を掻き毟って喜びあった。
数日後。天光寺の頭部にはそれは見事にふっさふさのネズミの毛が生えていた。
おしまい。
作品名:ちょっと怖い小咄【三幕】 作家名:JIN