ちょっと怖い小咄【三幕】
小咄其の参拾四 『生鮮食品』
「この前食べたお魚ってえ、骨が付いててマジむかついた~」
「えー魚ってぇ刺し身しか食べたことないけど、生き物なの?」
若い主婦やOLたちの無責任な会話を聞きながら、インテリめいた顔つきの青年、
遊星半平太さんは奥さんと歩いていた。これからスーパーでお買い物、である。
「はあ、今の子って、魚が最初から食べやすくなってるって思っているのかしら」
「まあな。アメリカだってカウとビーフ、ピッグとポークとかって別だから。しょ
うがないだろ」
夫の話に不承不承うなずく奥さん。
「はいはい、あなたは食べるだけだから。作る身になればいろいろ大変なんだから
ね、感謝しなさいよ、モー」
「それなら大丈夫。僕も作る側だからね。今のスーパーにも僕の作品、出回ってる
と思うよ」
「? だってあなた遺伝子学者でしょ? 調理人や魚屋さんじゃあ、ないわよね」
半平太さんは鼻歌まじりに生鮮食品売り場のパックに入ったピンク色の切り身を手
に取った。
「これ、僕が作ったの。遺伝子学的に生み出された食べやすいお肉なんだ」
自慢げにパックを弾いたり撫でたりしている。
「へえ、そんな事もしてたの? やっぱ食料不足の解消とかそんなののため? ど
っちにしても売り物をそんなに手荒に扱っちゃ駄目よ。肉が痛むしビニールが破け
ちゃ…あっ!」
びり。
謎のピンクの肉のパックは破れ、中身が飛び出てきた。
そして…
「ピギャア」
四角の切り身は器用に四隅で立ち上がり、そのまま駆け出していった。
「しまった。まだ生きてたまんまだ。生きが良すぎたかな、ははは」
メガネの奥の夫の顔を、奥さんは必死の形相で見つめていた。
・・・おしまい。
作品名:ちょっと怖い小咄【三幕】 作家名:JIN