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日永ナオ(れいし)
日永ナオ(れいし)
novelistID. 15615
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ハザード

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 久壱の言うとおり、俺はさっきまで手袋にぶっ飛ばされて塔に行き、そこで落っことされて帰ってきて、最終的に由伊姉に助けられた。ここまでは描写したはずだ。
 ビンタを食らって意識を失ったのが、五年ほど前の自宅前。
 揺り起こされてみれば、自分のベッドに潜って寝ていた。揺り起こした主は言うまでもなく由伊姉だった。
 由伊姉の人格をここで説明するのは、悪いけど割愛させてもらおう。順を追っていけばすぐわかると思う。
 最大音量でベルの音を携帯から垂れ流しながら、まず姉ちゃんはこう言った。もちろん俺はその音に飛び起きた。
「おかえり、おはよう。ここは二〇〇九年九月二十六日の朝七時半。私は二十歳。見りゃわかるだろうけど由伊の方。お父さんにもお母さんにも許可を取ったから、今夜はあんたと二人で外食になります」
「姉ちゃん金あんの?」
 まず俺はこう聞いた。
「ビンタされたい?」
 無言で首を横に振った。それを見てから、姉ちゃんはベテランのコンビニ店員が打つレジの如く続けた。知ってるか、あれ凄く速いんだぜ。
「師匠から言われたこと全部話すから、そのつもりで居なさい。六時に隣町の中華料理屋に予約取ってあるから。個室。はじめてのおつかいが出来たガキのお祝いをついでにします」
「大丈夫? 金あんの?」
 心配をあらわにする俺を安心させるように、姉ちゃんは俺から離れて、ドアに向かう。千手観音じゃない姉ちゃんは、右手で携帯のベルを止めて、左手をドアノブにかけた。
「知ってた? 毎週二十五日は給料日なんだよ」
「姉ちゃんの一週間って長いのな」
「……その方がいろいろ諦めがつくんだよ」
 時間を確認してから、かっこよく音を立てて携帯を閉じる。しかし今の会話を聞く分には、どう考えても姉ちゃんはかっこ悪い。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
 一応、姉想いの弟であるからには、姉のフォローをするのは当然だろう。聞かなかったフリをして送り出した。
 一切説明がないということは、夕食の席であらゆる説明をされるのだろうな、という予想を立てておいた。
折角の中華料理も食った気がしないな。無論、あの無茶苦茶でぼろぼろの会話なのだが、姉ちゃんはやるときはやる、本番に強いという嫌なタイプの人間だから困る。
 由伊姉が出て行った直後、再び寝転がろうとしているところに、がちゃりと無造作にドアが開く。
 由伊姉が居た。
「そうそう、久壱にはなかったことにしてあるから。でも多分失敗してると思うから、何か言ってきたら、夢だったんじゃないのとか言っておけばいいと思う。あの子単純だから。所詮小学生だし。あとあんたもあんまり思い出さないこと。呼び寄せちゃうから。つまりあれは、」
「もう三十五分だけど大丈夫?」
「行ってきます」
 ベッドテーブルの上に置いてあるデジタル時計をちらりと見て追い出した。長い話で、聞かれるとまずいから外食するんじゃなかったのか。俺の推測は間違いだったのか。
 まぁいいまぁいい、まぁいいさ。
 とりあえず形式上の昨日の夕方、学校から帰ってきて久壱の面倒を見始まったころ、手袋がきっかけで塔にぶっ飛ばされて戻ってきたら夕方で、でもそこは五年前だというオチ付き。しかしながら、五年前の姉にしっかりと助けられて、ようやく休めたと思ったら、意識的に一時間も経たないうちに、五年後、つまり現在の由伊姉に叩き起こされたという始末だ。
 嫌な予感は全くしない。
 ただ、疲れたからもう一度眠りたい。けれど、目がさえてしまって眠れない。
 そんな状況でごろごろしていると、久壱が飛んで入ってきたのだ。夏の虫ならぬ晩夏のガキだ。
 そして夢だということにして、自室へ戻らせた。由伊姉の指示は正しかった。しかし、失敗する方に自信持ってどうするんだという話。
 さて、時刻は朝八時を過ぎたか。
 はじめてのおつかいが出来たガキ。姉ちゃんのその言葉が今更こだまして、痛い。
 俺はまだ自分の嫌な予感ひとつ片付けられない中学生だ。姉ちゃんの手を借りなければ、異常現象すら回避できない。
 いつまでガキのつもりなんだろう。
 思い出す。兵の夢とやらは、俺をガキから解放してくれるのか。
 そうとなれば、いくらでも相手をしてやる。蝋人間だって、迷路学校だって、これから先に待ち受ける、知らない異常事態も。
 だけどまぁとりあえず、由伊姉の師匠に弟子入りしてみてもいいかな、とは思う。
 姉ちゃんにボコられることはあったけど、実際に他の対象に蹴りを入れ、尚且つ追撃を食らわそうとしているところははじめて見た。
 かっこよかったし。
「……はぁ」
 かっこよかったですか。確かにあの頃の姉ちゃん、若いし荒れてたし、かっこよさと言えば中学生が憧れる一般的な要素が詰まっている。
 しかし、それにしたって、弟子入りとか何を血迷っているんだ。
 脳内で自分にケチをつけていると、唐突に、ブー、ブー、と携帯が鳴った。マナーモードで眠るのが常識だと思っているんだけど、違うのかな。
 携帯を開く。メールだ。由伊姉から。
『九月いっぱいであんたのフリーダムは終わり。師匠が本格的に鍛え始めるって言ってるから、無理矢理にでも師匠のところに連れて行くことにしました。そのほうがあんたのためにもなると思う。ああそう、知ってた? 私、知識はまだ足りないけど、成人式で一応免許皆伝されてるんだよ。おやすみ』
 姉ちゃんは忍者でもあり、エスパーでもあったらしい。
 携帯を閉じて、素直に寝ることにした。姉ちゃんがおやすみって言うなら寝れそうだよ。
 おやすみ。
作品名:ハザード 作家名:日永ナオ(れいし)