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mizutoki catastrophe

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/フィコシアニンとアマランス



「ねえ、お兄ちゃん」
 貯水池公園の駄菓子屋前。サイクリング道に入る手前で休憩をとることにした。
「ソーダバー、おいしい?」
 イズミは首を傾げつつ話しかける。彼女の手には赤いかき氷。
「あついときのアイスは格別だね」
 夏の陽気に汗をかき始めたアイスを見て、ぼくは食べる速度をあげる。
「ねえ、お兄ちゃん。木と水がいっぱい」
 ろくに波の立たない水面とその奥の鬱蒼とした森を見ながら言う。
「楽しいか?」
 この景色を眺めて楽しめる人なんて釣り人や画家くらいのものだと思うけれど、イズミはそこから全く視線を外さない。
「あのね。お兄ちゃん覚えてる?」
「なに」
「水と木の話」
 彼女が見ていたのは、ずいぶんと遠い過去のことだったらしい。正確に言えば、ぼくらの名前が決められた頃。
 ――水と木の形はよく似てると思わない?
 母の口癖だ。もちろん水に決まったかたちはないので、文字の形なのだけど。
 ――それから、隣り合っているでしょう。
 曜日のこと。
 ――木は水がなきゃ生きていけないし、木は水をたたえることも出来る。ふたつは隣り合い支え合うの。あなたたち兄妹のように。
 だからぼくらの名は、水と木から取って、イズミとイツキになったそうだ。
「お母さんって詩人だね」
「たぶん売れない詩人だけどね」
「そだね」
 二人で笑う。蒼穹の下。
「イズミ、かき氷、水になってるぞ」
 赤色二号のため池が揺れるカップを見て、イズミはそいつをぼくに差し出した。
「飲む?」
 ぼくは受け取って一気に流しこむ。舌の上を流れる人工的な甘さ。
「そういえば、いちごシロップの着色料ってあんまり身体に良くないんだって」
 飲み干したぼくを見て言う。
「そういうことは飲み干す前に言ってくれ。ちなみにこのソーダバーは合成着色料使ってないんだとさ。お前の方が早死するかもな」
「その時はお兄ちゃんに看取ってもらうからいい。先立たれるよりはいいもの」
 特に感情も込めずに。
「そうですか」
「そうなのです」
「お兄ちゃん、もう食べ終わった?」
 イズミはもの欲しそうにぼくを見つめる。
「ああ、これ?」ぼくはアイスの棒をさしだした。「では、回収」
「お前、アイスバーの棒集めるの好きよね」
 彼女の趣味の一つだ。蒐集癖のなかでもとりわけ珍しいものだろうと思う。
「うん、毎度」
 そういって、大事そうに袋へおさめた。
「今度お前にいっぱいアイス買ってこよう」
 冷食・アイス半額セールの日を狙えば何とかなるだろう。
「いい、別に」
「遠慮しなくていいぞ」
 ぜいたく品を買うことに気をつかうとは。
「未使用品に興味ないです」
 こともなげ。
「えっ、あ……そう?」
 イズミの趣味だけはよく分からない。

作品名:mizutoki catastrophe 作家名:白日朝日