小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

題名未定

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 


「りょーじ!」

振り返る。そこにいたのは、友人の武村達己(たけむら/たつき)だった。
季節は夏。もう少しで夏休みの7月初旬。
達己は、汗だくだった。俺の近くまで走ってくると、立ち止った。
そして、俺の向こうを指差して、
「コンビニ!寄ろう!」
と、言ってきた。

「暑いもんな、アイスでも食べたい」

そう俺は言うと、達己はこれでもかというばかりの笑みを浮かべて
「だよな!」と歩き始めた。
俺はこの笑顔には弱い。と、思う。

「遼司は、暑くないん?」

達己はパタパタ手で、自分の顔を仰ぎながら、俺の顔を覗き込んできた。

「暑いよ。さっきそう言った」
「あ、そうやっけ?」
「うん」
「そっか、へへ」

達己は照れ臭そうに笑うと、鞄から財布を取り出した。
お金がどれだけ入っているか確認しているらしい。
すると、隣で、「あぁ…」と落胆の声を吐きだすのが一人。

「どうした?」俺は、訊くと、今度はこれでもかというばかりに、悲しい顔をして

「お金がないん」

と言ってきた。
わかりやすい奴だといつも思う。

「アイス買えないのか?」
「買える。アイスくらいなら買えるけど…雑誌が買えん」

雑誌かよ!と、思わず言いそうになった言葉を飲み込む。

「いくら足りないんだ?」

そう言いながら、俺も鞄から財布を取り出した。

「んー、やっぱええ。また今度買うし」
「貸すよ。500円くらいだろ」
「まぁそうなんやけどさ」

達己は、迷っているようだ。目が泳いでいる。


こんなに俺と親しくしてくれているこいつも、いつかは俺のことを忘れてしまうんだ。

いつだってそうだった。
俺が、こうして20年も同じ学校に通えているのには、それなりの理由がある。
2月が終わった時点で、少なくとも俺の周りにいる人たちの記憶から、
「俺がいた」という事実は消えてなくなるらしい。
だからなんだ、何回も何回も、転入生ということで、この高校へ入っている。
誰にも気付かれず、怪しまれず。


去年まで、俺のことを知ってたやつらは、3年生になっている。
それでも、俺のことを「アレ、何で2年に?」なんて言うような人は、1人としていなかった。
と、いうことは、俺の存在は、なかったことになっているんだ。
どうやら歳もとってないようで、全然老けたりもしない。
本当なら、今年で37歳。もう、いい歳だろう。

俺のこの奇怪な現象を知ってくれてて、俺の面倒までみてくれてる人が一人だけいる。
その人は…

「なあ!遼司」

突然、達己に呼ばれてビクッと体がはねた。

「どうしん?悩み事??」
「いや・・・別に・・・」
「俺、考えたんやけどな!俺がアイス2つ買う。んで、遼司が雑誌買う!これでいいと思わん?」

それじゃ、どう考えても俺が損してることになるじゃないか…けど、

「ま、いいよ。今回だけな」
「え!いいん?ありがとう」


はいはい、その笑顔には勝てません。
達己が走り出す。
20年、高校生やって来たけど、こんな眩しい奴に出逢ったのは初めてかもしれない。

そう思い返すと、嬉しくてたまらなかったんだ。

作品名:題名未定 作家名:くま吉