壊した鏡
完全にからかわれている。そう思うやいなや、ユキの頬に張り手をくわした。大きくよろけた。
「おい、ハルカ、本気じゃないだろ?」
「どういう意味かしら?」
「いや、何でもない」と社長は口ごもった。
「はっきり言ってよ。社長」とハルカのテンションはますます上がった。
「鏡を見れば分かるよ。いつもの君らしくない。この頃、少し変だ。少し休んだ方がいいかもしれない」
「邪魔だと言うの。そうでしょ」とハルカは突然、泣き出し事務所を出た。
マンションに戻って鏡を見た。一瞬、自分の顔と一緒にユキの顔も見えた。明らかに彼女の綺麗だった。社長が言ったのを思い出した。“鏡を見ろ”とはそういう意味だったのかと思った瞬間、鏡に物をぶつけた。鏡は砕け、足元に散乱した。