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ヨシイ ハル
ヨシイ ハル
novelistID. 23704
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俺たちはどれぐらい一緒にいられるのだろう。

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「波留ー」

「…」

「しめじ入れていいー?」

「…」

「…波留ー?」



リビングに焼きそばを炒める音と

自分の声だけが響いていることに気づいて振り返った。



『あ』



俺はすぐに状況を理解した。


『あー、もう。』


心の中で呟いて口元をほころばせた。



気を取り直してキッチンに向き直し

ちょっと古くなったしめじをフライパンの中に投入した。




「波ー留ー」

両手に皿と箸を持って食卓に置きながら

白いソファに向けて呼んだ。


やっぱり返事は無い。

ソファの端から茶色い小さな頭が見える。


俺はソファのシートにぺったりとくっついてる波留に近づき

付けっぱなしになっていたテレビの電源を落とした。



すーーー…


さっきまでお笑い番組の再放送を見て笑っていた波留はすっかり寝入ってしまっていた。

小さい体が幸いして、いつも違和感なくこのソファで眠れる彼。

ふかふかなのが気持ち良いらしくここで眠ってしまう。


よくこんな狭いところで寝られるなと呆れると

狭いのが落ち着くんだもんと俺を笑わせた。


ソファで丸くなっている大好きなヒト。

いつも素直で元気でかわいくて。

俺に懐いてくれる。


無防備な姿。


子犬みたいな波留が愛しい。



でも、

こんなとこで寝てるとまた風邪引くぞ。


そんなことを思いながら俺はその幸せそうな丸みを帯びた頬をつついてみる。


小さな寝息とあどけない寝顔。


この人が年上だなんて。

とても思えないんだなぁ。


「はーる坊~」

柔らかな頬をつねると

「…んぅ」

ちょっぴり眉をひそめた波留が緩やかに目を開けた。

うるうるかつトロンとした瞳で上から覗き込んでいる俺に視線を合わせる。

ああヤバイなぁ。


「メシ!」

わざと大きな声でそう言うと波留は慌てて身を起こし「あぁごめん、また寝ちゃった」と寝起きの声でちょっぴりばつが悪そうに俺を見上げる。

その上目づかいな顔があんまり可愛くてドキリとした。

自分の頬が赤くなるのを感じた俺は照れ隠しに目の前のスラリとした鼻先をつまんでやった。

「ふぐっ」と波留が苦しそうに目を閉じた。

その反応もまるで幼い子どもみたいで俺は「ふはは」と吹き出す。

少し困ったように眉を下げる波留に「ほら、メシ食お。」とその手を引いた。



「あーうまそぉ~」

俺が座るのを待って「いただきまぁす」と手を合わせる。

はい、いただきます。と俺が復唱する。


「あ、んまい。」

「ちょっとしょっぱかったかな」

「んーん、ちょうどいいよ」

「しめじ入れちゃったけど良かった?」

「うん、おいし」

「そのしめじ、ダメにするとこだった。」

「気づいてあげて良かったね」

「…え?」


「…ん?」

波留が顔を上げた。


俺は笑い出しそうなのを堪えた。

冷蔵庫の奥でひっそりと息絶えそうになっていたしめじの存在に“気付いてあげて良かったね”と言う発言。

この人はよくこういう調子の物言いをする。

俺のツボなのだ。

その度に嬉しくなってつい反応してしまう。

もっとも波留本人はいたって普通らしくしばしキョトンとした後、笑われてると気付いて“なんだよぉ”ってカオをする。

自分の作った少ししょっぱい焼きそばを美味しそうに口に運ぶ波留を見てると何だかとても幸せな気分になった。


俺にとって彼は可愛くてしょうがない存在で。

10㎝近く低い身長に華奢な体つき。

仕草、表情、話し方。

外見も性格も全部が好き。

俺より2つ年上の波留。

でも目の前の彼はどうやったって27には見えないし。


ちなみに箸の持ち方もちょっと間違っているんだよね。

だから小さなしめじのかけらとか、上手く拾えない。

するとほらね、お皿に口を近づけちゃう。

もー、いい大人が。行儀悪いんだから。

そうしてまたもや俺の口元はほころんでしまう。



「あ、おれ洗うよ。」

食器を下げようとすると波留が立ち上がった。

ぼんやりしてて超が付くほどマイペースなようでいて、ちゃんと気を遣ってる。

料理はしないけど洗い物は好きなのと妙なことを言う波留。

作るのは苦にならないが片付けがちょっと…という男料理の典型的パターンを行く俺といいバランスじゃないか。


慣れた手つきでフライパンを洗う波留に「飲む?」と500mlの缶ビールをちらつかせニヤッとする。

「ええ~、昼間っからぁ?」

「たまにはいいだろ」

「…いいね。」

「天気もいいし、うまいぞぉ!」

俺が楽しそうな動きをして見せると、手をあわあわにした波留が「ふふ」と肩をすくめた。

心をくすぐる波留の鼻に抜けるような笑い声。




リビングの大きな窓を開け放し外に出た。

狭いベランダだけど、11階からの眺めはそんなに悪くない。

見慣れた景色を眺めながら一口飲んで「ぷっはーーっ」と大げさなリアクションをかます俺に波留がまたちょっと笑った。


俺は缶ビールをタンブラーに注いで飲む。

そっちの方が絶対美味いから。

そこんとこの違いがあんまり分からない波留は、缶のままコクコクとビールを飲んでいる。


「あ、忘れてた」と波留が俺のタンブラーにコツンと缶を当てた。

「遅っ」

今さらの乾杯に俺たちは気が抜けた笑い声を上げた。


「最高だなー」

太陽に手をかざすと「なんか贅沢だね」波留も満足そうに言いながら同じ動きをして見せる。

それだけでうんと幸せな気持ちになってしまう俺。

すげー好きだなぁ。



5月のほんのり冷たい風が気持ち良くって。

いい感じ。


「あ、夏のにおいがする」

空を仰いだ波留が鼻をひくひくさせた。


その仕草に見とれた。


午後の陽ざしに照らされて波留の美しい横顔が白く光ってる。


「なぁハル」

「んー…?」

俺はリラックスした様子の波留をチラリと見た。

ベランダの手摺にだらんと体をあずけて両手をぷらぷらさせている彼は、果たして俺の次の言葉を待っているのかいないのか。


太陽の下では金髪みたいな波留の髪。

よく似合ってる。

思わずその透き通った髪に触れた。



“ナァニ?”と言う代わりに首を傾ける波留。

ビールの缶を口につけたまま
俺に向けられたその瞳が丸くなってて。

そん中に俺が映ってる。


「どぉしたの?」

無邪気な言葉と無垢な笑顔。




「波留」


そんな風にあんたが柔らかく微笑む度に思うんだ。



「好きだよ。」


って。




一瞬だったけど俺を見つめる茶色い瞳がゆらめいた。

ように見えた。



でも。



にっこりと、彼は今日一番の笑顔で


「おれも隆くん好き」


迷いなくそう答えてくれた。



嬉しいけど。


「おう」

それだけ言って俺は前を向いた。

身を乗り出して景色を見ているふりをした。


不意に泣きそうになったんだ。




ね、波留。


違うんだ。


たぶん
きっと
違うんだ。


俺の“好き”とキミの“好き”は。



それを知ったら。




今みたいに笑ってくれなくなるんだろうな。