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金田正太郎の懐疑

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「お前と十海寺、親戚ってマジ?」
 屋上から校舎に戻る階段の途中でそう話を振ると、蔦谷は吐息で笑った。
『春のこと、気になる?』
「敵のこと知んのも大事だろ」
『高花田先輩みたい』
「どーせ受け売りだよ」
 蔦谷にそんな気はないんだろうが、少し馬鹿にされたような気がして鼻を鳴らすとごめんね、と書かれた紙を出された。
「別に気にしてねえよ」
 笑った蔦谷は、唇の動きだけで何かを言ったが、オレにはなんて言ったのか解らなかった。
「何?」
 首を傾げたオレに蔦谷はなんでもないと言うように首を振って、スケッチブックに何か書き付けた。
『俺と春はね、一応は親戚ってことになると思う』
「……なんか引っ掛かる言い方すんな」
 一応ってなんだ、一応って。ぼんやりした顔で大人しく、喧嘩も嫌いなわりに案外はっきりものを言う蔦谷にしては、珍しく歯切れの悪い言い方だった。
『ごめん、でもあんまり俺から言うのもよくないんだ。俺だけの問題じゃないし』
「十海寺にも問題あるってことかよ?」
『そう。だから詳しく知りたいんだったら春に聞いて。答えてくれるかはわかんないけど』
 やっぱりなんかはっきりしない。奥歯にものが詰まったような気持ち悪さだ。
「んだそりゃ」
『正直、真木くんと花嶋さんも知ってるかどうか危ういレベルの話だから』
「……まじかよ」
『だからごめんね、どうしてもって言うんだったら、春に聞いて』
 真木に花嶋も知らないかもしれない話なんて、オレに話すはずもなさそうだが。蔦谷は、そのもしかしてがあると思っているんだろうか。
「(……まあ、ありえねーな)」
 なんだか複雑そうだし、その話題については早々に忘れることにした。
『じゃあ俺、こっちだから』
 蔦谷が指差した先は、教室とは逆方向だった。
「教室戻んじゃねーのか」
『司書さん休みって、嘘なんだ』
 そう笑って蔦谷は手を振り踵を返した。
「おい、何で嘘なんか――」
 思わず呼び止めたオレの声に振り向いた蔦谷はぺらりとスケッチブックを捲って何かを書き付けた。
『春は寂しがり屋だからね』
 そう書いたページを見せて笑うと、蔦谷は今度こそ図書室の方へ向かった。
 ――蔦谷のことも、正直よく解らない。が、あの十海寺を単なる寂しがり屋だと言う辺り、実は大物なんじゃないだろうかと思った。
「(……そういや、高花田先輩も似たようなこと言ってたな)」
 ――十海寺くんは、あれで寂しがり屋だからね。だから俺はあの玉座をあの子にあげたんだ。
 勝ち誇る風でもなく、ただ何でもない思い出話のように高花田史規はそう言う。そしてその口で必ずこう聞いてくる。最近はどんな感じだい?
 そんなの、自分で確かめればいいのにいつもそう聞いて、オレが答えれば満足げに頷いて、答えなければそれはそれでと言わんばかりに頷くのが高花田史規だった。全く、頭がいい奴のことはよくわかんねえ。
 オレには十海寺は単なる嫌な奴なのに、蔦谷と高花田にとっては寂しがり屋なんだから、つくづくよくわからねえ野郎だと思う。



(ただオレにとってアイツは鼻持ちならねえ野郎だということに変わりはない)
作品名:金田正太郎の懐疑 作家名:森園