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風とキズと僕と椎名君

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「風強くなってきたな」

「え、あ、うんっ」
 時折僕らの頬を撫でていた木枯らしが強くなって落ち葉を巻き上げてどこかへ運んで行く。椎名君の前髪が風に煽られてふわりと持ち上がる。

 あ、キズが見えた。

 最近俺はどこかおかしいのかもしれない。椎名君のキズがみえる度に、そこを舐めてみたくなる。他の部分よりもうっすらと赤く色づいている椎名君のキズはどんな味がするんだろう。ぷくりと盛り上がって、ちょっと艶をもっている新しい皮膚にそっと舌を這わせて味わってみたい。縫い跡の点々をひとつひとつつついてみたい。

 多分、きっと、甘い味がする。


「帰るか」
「え、」
「んだよ、寒ぃだろ?」
「あ、でも…もうちょっと、ここにいたい…かも」
「んだよ。…しょうがねぇな。じゃあ後1本吸うまでな。そんで、マックでコーヒー奢れよ」
「うん!」

 よかった。もうちょっとキズを見ることができそうだ。

 どうしよう、言ってみたら椎名君はどうするかな。「バカじゃねぇの」って呆れるかな、それとも何も言わずにゲンコツもらうかな。
 椎名君が2本めのタバコに火をつけようとしたら、またちょっと強い風が吹いた。
「ちっ」
 ライターの火が消えて椎名君が舌打ちする。また、なびいた前髪が椎名君のキズをあらわにする。


 ああ、舐めたいな。



作品名:風とキズと僕と椎名君 作家名:米つぶ