続・聖なる日
目の前がグニャリと歪む。
バレていた。橋本さんには私の愚かな行為がバレていたんだ。あの笑顔の裏で私を嘲笑っていたのだろうか? それとも憐れんでいたのか?
「お前、傘持ってねーの?」
彼の言葉によって私の視界はなんとか正常に戻った。
「うん……今日は忘れた」
「らしくねえなあ。お前、ホントに寺崎慶子か?」
笑いながら彼が私に持っていた傘を手渡し、それがあまりにも自然だったのでそのまま受け取ってしまう。
「今日は寒いなあ」
「うん……」
「まあ、雪が降ってんだから寒いのは当たり前かあ」
「そうだね……」
「……」
「……」
白くなりつつある道を私は彼と一緒に歩いていた。
少し前を歩いている彼は私が持つ傘の下にはいない。
「……で?」
突然、彼が振り返って私を見据えた。
「お前は何しに来たわけ?」
「……」
選択肢は二つ。このまま誤魔化して逃げ出すか、結果が分かっている告白をして傷口を広げるか。
誤魔化すためのセリフを思いつく前に、私は鞄からソレを取り出していた。
「もっと大きいのくれって言っていたから……」
我ながら訳の分からないことを言いながら差し出したチョコ。
それを無言で見つめている彼。
無限にも思えた一瞬。
「ああ、確かにあの時のよりはデカいな」
チョコを受け取った彼は乱暴に包装紙を破って中身を取り出した。
私が初めて手作りした星型チョコ。さすがにハート型は恥ずかしくて作れなかった。
目の前で食べ始めた彼の顔が少し歪む。
「お前……コレ味見したか?」
「えっ?……あっ!」
言われてみれば味見をした記憶が無い。自分でも呆れるほどの迂闊さ。
(だって、本当に食べて貰えるなんて想像していなかったから……)
「ゴメン、変な味だった……?」
「ああ、全然甘くねーな。ビターとかいうレベルじゃねえ」
そう言いながら、彼は苦いチョコを食べ終えていた。