看護師の不思議な体験談 其の参
看護師の不思議な体験 其の参
『肝性脳症』という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
身近に肝臓の悪い方がおられたら、もしかしたら耳にしたことがあるかもしれません。
そもそも肝臓とは、代謝のコントロールをする臓器といわれています。肝炎や肝硬変などでその機能が低下すると、身体にとって有害な神経物質が溜まり、様々な神経症状が現れ始めます。これを『肝性脳症』と言います。
レベルは5段階あり、抑うつ状態、見当識障害と進行し、最悪昏睡状態に陥ります。
しかし、肝不全因子とアンモニアが関係していると言われていますが、明確な原因ははっきりとはしていないのが現状です。
という前振りがありまして…本題です。
夜勤勤務のため、私は19時から申し送りを聞く。その日は、肝臓の手術があったが、手術は何事もなく無事終了しており、患者様はまだ麻酔の影響でうとうとしている状況だった。五十五歳、少々小太りの男性で、手術前の様子ではとても穏やかな方だった。IC(医師からの説明)では、妻の同席もあったが、優しくかつ夫をしっかり支えることのできる奥様。仲むつまじい印象だった。
申し送り後、まずは呼吸器装着などの重症患者を回り、その後手術後の患者様の部屋へと訪れる。
「○○さん」
声をかけると、うっすら目を開ける。キョロキョロと目を動かす。
「私の声、聞こえます?痛みはないですか?」
○○さんは、ゴホゴホと一度咳をした後、
「うん、今のとこ、なんもない」
と返事をし、にやっと口角を上げた。
手術が無事終了したことなど説明をし、笑っている夫の姿を見て、付き添っている奥様も一安心。
一通り検温と処置が済むと、○○さんはもう一度うとうとし始めた。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の参 作家名:柊 恵二