クリスマスプレゼント
予想外の出来事にナオは声が出なかった。そして、すまなそうに微笑む多香子に怒りが覚えたものの、どう言えばいいか分からず泣き出してしまった。
「ごめんね」と多香子が言った。
「許さない!」と突然泣き出した。
多香子は雨に打たれながら、何度も謝った。
ナオは黙っていた。それが答えだった。沈黙の重さを噛みしめ多香子は消えた。
次の日の朝、多香子は由紀子の病室に訪れた。
「昨日は家に泊まったの?」
首を振り、「友人のところに泊まった」と答えた。
「ナオが許さなかったのね。本当は会いたいのに。どうして素直になれないのかしら?」と由紀子は多香子をみて悲しそうにほほ笑んだ。
「私の娘ですから」と多香子は答えた。
夕方にナオも来た。
二人とも口を利かない。
「あんたたち、親子なんだよ。どうして、そんな顔をしているの? 私はもうじき死ぬのよ。そんな顔していたら、天国に行けないわよ」と由紀子は笑った。
ナオは「そんな悲しいことは言わないでよ」と泣きだした。多香子も泣いた。
由紀子は二人の手をとり重ねた。
「ナオを見ていると、遠い昔の多香子を思い出す。目なんかそっくり。多香子はいつも夢物語みたいなことばっかり言っていた。心優しく、寂しがりだった。本当はずっと前に日本に戻ってきたかったでしょ? そしてナオに会いたかったでしょ?」と言うと、多香子は子供のように泣いた。
「ナオ、お母さんはね、毎年、手紙を書いてくれたのよ。そして『ナオちゃんは元気に暮らしている? 』 と書いてあった。心配なら会いにくればいいのに。それが言い出せなかった。いつも損な役を演じている。まるで道化師みたい」と言った。
「疲れたの。もう眠りたい。ナオ、お母さんを許してあげて。だって、もうじきクリスマスよ。お母さんにプレゼントしなさい。そして私を眠らせて」と小声で言った。
ナオの目から大きな涙が流れてきた。
「分かった。でも、病気を治すと約束してよ」とナオが言うと、由起子はうなずいた。
「ねえ、ナオ、おばあちゃんのクリスマスプレセントはケーキにして。白い雪を見ながら、白いクリスマスケーキを食べてみたいの。ほら、窓の外を見て。雪が降っている。雪を見ていたら、遠い昔、好きな人と食べたことを思い出しの」と由紀子は微笑んだ。
作品名:クリスマスプレゼント 作家名:楡井英夫