そらとぶじてんしゃ
公園に通っているうちにも、時間はどんどん過ぎています。
そしてまた、誕生日がやってきました。
ケンくんが水色の自転車から降りると、自転車は言いました。
「明日からもう、君と空を飛べないんだ。」
ケンくんは突然、心の中がぐちゃぐちゃになりました。
「どうして。どうしてもう一緒にいられないの。」
水色の自転車は静かに、ケンくんへ伝えました。
「もう君は、背も高くなったじゃないか。もう君は、ひとりでどこへでも行けるくらい大きくなったじゃないか。
もう僕じゃ小さすぎるよ。」
確かにケンくんはもう、あの時の小さい男の子ではなくなっていました。
自転車にも、両足をしっかり地面につけたまま、乗れるようになっていました。
「おおきくなったらのれないの?」
ケンくんの目から涙がこぼれました。
「今の君に、僕じゃもうだめなんだ」
「今日ものれたよ。つぎもちゃんとのれるよ。だめなの?」
「絶対に、いつか駄目になっちゃうんだ。」
もうすぐ家に帰る時間ですが、ケンくんは帰るのが嫌になりました。でも、水色だった空は、もう赤くなっていました。
「ケンくん」
自転車は優しい声でいいました。
「初めて僕を見つけた時、君は大きくなりたいと願ってた。そう願った通り、君は大きくなれたんだよ。それはとってもいいことなんだ。」
ケンくんはうなずきました。
自転車は、初めて会った時よりもずっとぼろぼろになっていました。
ケンくんは、今日が自転車とのお別れの日だとわかりました。
また涙があふれてきました。
「バイバイ。」
「バイバイ。」
ケンくんは、何度も公園を振り返りました。
ケンくんは家に帰りました。
家に入ろうとしたら、昨日はなかったものが、物陰に隠れているのを見つけました。
ケンくんはそれに近づいてよく見てみました。
かっこいい、ピカピカの赤い自転車でした。
明日の誕生日プレゼントに、おかあさんがこっそり買っていたものでした。
ケンくんはちょっぴりニコニコしたまま、いつも通り玄関のドアを開けました。
次の日、ケンくんはおかあさんと一緒に、新しい自転車に乗って公園まで行きました。
公園中を何度も何度も、ぐるぐる見渡しました。水色の自転車は、どこにもありませんでした。
おかあさんはそれをみて、「初めてなのに上手に自転車に乗れるね」と驚いていました。
明日は広場まで行ってみよう。ケンくんはそう思いました。
この自転車で、昨日まで見下ろすだけだった場所へ行ってみたくなりました。